「これはビジネスなんだ。」アクアブルースポートのリック・デラニーが語る”新しい自転車チーム”の形

 

毎年のようにチームが誕生しては消えていく自転車ロードレース。

2016年は IAM と ティンコフ という二つのワールドツアーチームが消滅、2017年はキャノンデール・ドラパックが存続の危機に立たされた。そんな財政的に不安定なチームの多い自転車ロードレース界の中で、2017年に創設されたプロコンチネンタルチーム アクアブルースポート はスポンサーを必要としない “完全自立型” のチーム運営を目指している。

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2017年に「アイルランド初のプロコンチネンタルチーム」として創設されたアクアブルースポート。現在16人いる選手には、元イギリス選手権ロードチャンピオンのアダム・ブライスや、2017年アメリカ選手権ロードチャンピオンの「キャプテン・アメリカ」ことローレンス・ワーバス、204cmの身長が一際目立つアイルランドのコナー・ダン、今年のツール・ド・スイス山岳賞を獲得したラーセ・ノーマン・ハンセン、そして記憶に新しい2017年ブエルタ第17ステージで勝利をあげた元IAMのシュテファン・デニフルと、実力の確かな選手が揃っている。

またチームとしてはフレッシュ・ロワンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、ツール・ド・スイス、そしてブエルタ・ア・エスパーニャと初年度のプロコンチネンタルチームとしては異例とも言える数のワールドツアーレース出場を果たしている。

・動機は自転車ロードレース界への疑問

チームのオーナーは48歳のアイルランド人であるリック・デラニー

アルコール飲料のネット販売ビジネスで財をなし、現在はモナコに居を構えている。彼は優秀なビジネスマンであると同時に熱心な自転車ロードレースファンであり、モナコに周辺に住むプロ選手との交流を持つだけではなく、これまで何年も自国アイルランドのチームへの資金提供を行ってきた。

しかし自転車への愛がある一人ビジネスマンだからこそ、近年の自転車チームのスポンサーに頼る「不安定な経営方法」には疑問を持っていた。

「スポンサーの影響で毎年のようにチームジャージのデザインが変わってしまう。またチームはスポンサー資金しか資金がない。チームがチームとして独立していないのはここ数年の自転車界の動きで明らかだ 。」

そうして彼は 長期的に安定したトップレベルの自転車ロードレースチーム を目指し、アクアブルースポートを創設した。

・「自転車製品のアマゾン」が可能にする完全自立型チーム

「チームは アクアブルースポートからスポンサーを受けているわけではない。 このチーム自体がアクアブルースポートなんだ。それがこのプロジェクトの個性、スポンサーをベースとした経営ではなく、企業が運営しているプロジェクトなんだ。そして目標は、チームとして自立した運営ができるだけの利益を得ることだ。」

アクアブルースポートとはチーム名であると同時に、企業として自転車製品のネット販売を経営している。チームが使用するジャージや自転車はもちろん、自転車に必要なアクセサリーや、サプリメントまで幅広く取り扱っており、現在はアイルランドとUK中心だが、ユーロ圏内やアメリカ、日本でも購入することが可能だ。

アクアブルースポートの消費者向けの解説動画

さらにアクアブルースポートは「街の自転車ショップ」と提携し、掲載されている店の商品を購入することができる。ちなみに掲載料は無料で購入されてから手数料が発生するという良心的なモデルだ(ここがアピールポイントらしい)。

つまりチームが活躍することによって販売サイトの露出が増え、その売上が直接チームの運営資金になるという明快なシステムモデルなのである。

「他のチームがスポンサーを血眼になって探すなか、我々にスポンサーはいない。スポンサーは必要ないんだ。我々は全員アクアブルースポートという会社の社員であり、同時にアクアブルースポートというチームのメンバーでもある。全員が同じ会社の為に働いているんだ。」

・これは ”ビジネス” なんだ。
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デラニーは、この新しいチーム運営を決して ”実験” などとは思っていない。あくまでも現実的なプランに沿って行う ”ビジネス” であることを強調する。

「これは ”ビジネス” なんだ。スタートアップビジネスであり、アクアブルースポートは真っ白なキャンバスなんだ。」

「チームに興味を持った人が販売サイトへのアクセスしてくれる。チームとサイトが密接に繋がっているため、チームと関わりたいという人は同時にサイトと繋がることになる。そしてそこで購入したり、自分の店の商品を掲載したり、自社ブランド商品を販売するということは、チームへ貢献しているということなんだ。これは上手く行っている、上手く行っているんだ。」

・スカイも決して安定してはいない
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スポンサーからの資金提供に頼る経営ではなく、企業が直接チームに関与する運営は限りなく”実業団チーム”の形に近い。そしてこのモデルには、その豊富な資金により自転車ロードレース界に君臨するチーム・スカイがいる。

しかし、デラニーはそのスカイの未来にも疑問を投げかける。

「スカイの1ブランド型が、アクアブルースポートの運営モデルに一番近い。しかし、もしスカイが自転車チームから手を引けば存続することはできないだろう。その点アクアブルースポートは違う。チームは会社の一部であると同時にネット販売事業はチームの一部なんだ。」

・アイルランドを味方につける

チームアイテムには全てアイルランドを象徴する「シャムロック(クローバー)」があしらわれている。

その独自の経営形態が注目を集めているが、アクアブルースポートの設立理由はあくまでも「母国アイルランド籍のチームをトップレベルのワールドステージに送る」ことだと言う。

「 アイルランドらしい、アイルランドを代表するチームを作ろうとしているんだ。自転車競技は国から大きなサポートを受けているが、決してメジャースポーツではない。そして、アイルランドは世界でも有数のスポーツファンがいる国だ。もしその国民をチームの味方にすることができれば、彼らは本気で応援してくれるだろう。」

アイルランドにはダン・マーティンやニコラス・ロッシュ、サム・ベネットなど優秀な選手がいるが、国内の自転車ロードレース人気は決して高いと言えない。デラニーはアクアブルースポートの活躍を通して、アイルランド国内の自転車競技の盛り上りを目論んでいる。

・4年以内にワールドチームへ

We are ready – our riders backstage at tonight’s #LV2017 team presentation. 📸 @karenm.edwards

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デラニーはこの”完全自立型チーム”の経営確立という「オフ・ザ・バイク」の成功と共に、自転車チームとしての「オン・ザ・バイク」の成功を目指している。

「4年以内(2020年)にワールドチームになることが目標だ。そして2年以内にグランツール出場が目標だったが…わずか7ヶ月で達成してしまった。笑」

「我々は自転車チームとして成功を挙げるだろう。初年度は選手、そしてスタッフにとって学びの年になる。もし我々がよい成績を残し、露出をし、戦えることを示すことができれば、同様のことが自転車チームではないアクアブルースポートにも起こるだろう。一年目のゴールはプレゼンスを示すことだ。我々には何のプレッシャーもない。」

(ブエルタ前インタビューより)

結果的にアクアブルースポートはチームとして、ツール・ド・スイスの山岳賞、ブエルタ出場、さらにはデニフルによるステージ優勝と、チーム初年度としては十分過ぎる、周囲の予想をはるかに凌ぐ結果をもたらせる事になった。

 

キャノンデール・ドラパックGMであるジョナサン・ヴォーターズがインタビューで「世界的な恐慌の影響からか(中略)スポンサー契約の環境はますます厳しくなっている。」と答えたように、自転車ロードレースを取り巻く財政的な環境は決して上向きとは言えない。

そんな苦境に立たされている自転車ロードレース界のなか、チーム運営を ”スタートアップビジネス”と言い切ったリック・デラニーが率いるアクアブルースポートが、自転車ロードレース界にどんな新しい風を吹かせてくれるのか、二年目の活躍がいまから楽しみでしょうがない。

 

参照記事

The Bicyclist Experience No.96

PezCycling News

The 42

CyclingTips

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