自転車を提供するメーカーの知られざる実態

現在16のメーカーが、ワールドツアーを戦う18チームに自転車を提供している(CanyonとSpecializedがそれぞれ2チームに提供)。

高額なスポンサー費に加え、1シーズン200台近くの自転車を提供するメーカーの実態を、自転車ロードレースの世界で長く働いてきたある人物の話を中心に、オーストラリアの『CyclingTips』が詳細にまとめていたので、一部意訳を交え翻訳した。

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今回の取材に協力してくれたのはパオロ(仮名)。彼は6年間、世界のトッププロチームで選手として走り、その後は数十年に渡りワールドツアー・チームで働いてきた。

「おおやけには誰も知らない…ことになっている。だが(誰がいくら貰っているかなんて)みんな知ってる。それが自転車ロードレースの世界だ。プロトンじゃみんな知り合いだから。」

シーズン毎にチームが生まれ、そして消えていく。しかしその中で働くマネージャー、メカニック、スタッフ、スポーツディレクター、ドクター、マッサージャーなどの顔ぶれは変わらない。なぜならスポンサーやチームが変わっても中で働く人たちは変わらない。だからロードレース界に身を置いていれば何もかもが筒抜けなのだ。オフレコでは。

高騰を続けるスポンサー料
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「一昔前まで自転車メーカーの負担は少なかった。国営くじやアイスクリーム、洗濯機などのメインスポンサーから巨額のスポンサー料があったため、自転車メーカーは約1.3億〜1.6億円(€1〜1.2m)程度で契約することができた(自転車などの費用を除いたスポンサー料)。」

しかし、20世紀の終わりにそんな状況が一変する三つの出来事が起きたのだ。

一つ目は、ドーピング

その始まりは1998年の「フェスティナ事件(ツール期間中にフェスティナというチームから大量の違法薬物が見つかった事件)」だ。その後、2012年のランス・アームストロングによって一応の一区切りがつけられたが…

「これによって巨額の資産を有するスポンサーが自転車ロードレース界から去り、残った企業も以前のような大金を注ぎ込まなくなっていった。その為、自転車メーカーがスポンサー料でその差額を埋めざるを得なくなったんだ。」

二つ目は、それまで順調だったアメリカのマウンテンバイク市場が縮小が挙げられる。

「それによってアメリカの自転車メーカーは、未知であったロードレースに参入し始めた。だが、何も知らない彼らにとってのレースとはツール・ド・フランスであり、当然メーカーの狙いはツール出場が確実なトップチームだけだった。」

アメリカ(非欧州)の大手自転車メーカーによるツール初参入は、1998年に「サエコ(イタリア籍のチーム1996〜2004年)』と契約したCannondaleだろう。その後、同年にTreckが「U.S.ポスタル」と、GIANTが「ONCE」とスポンサー契約を結び、1999年に争奪戦の末、残り物の「フェスティナ」とSpecializedが手を組んだ。

限られた供給(トップチーム)に多数の需要(自転車メーカー)。当然、スポンサー料は高騰し一時期の約2倍にあたる約3.3億円(€2.5m)まで跳ね上がっていった。

三つ目は、UCIが2005年に打ち立てた『プロツアー構想』だろう。F1グランプリを真似たこのコンセプトは、自転車ロードレースを近代化させ、金満スポーツへと導いていった。

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その結果プロツアー・ライセンスは20チームに限定され(当時)、ライセンスを有するトップチームの価値は高まった。当然チームはライセンスを保持しなければならず、各チームは財政的な保障の為にスポンサーとの複数契約(最低4年)を余儀なくされた。

”自転車ロードレースのF1化”によって競技レベルは向上し、プロツアーチーム同士の戦いはより激しさを増した。だが同時に選手の年俸も爆発的に上がり、チーム予算と共にスポンサー料も高騰し、最終的に自転車メーカーのスポンサー料は20年前の3倍にも及ぶ約4.2〜5.9億円(€3.2~4.5m)まで上がった。

現在、自転車メーカーがワールドツアーチームに支払うスポンサー料は年間およそ4.2〜5.9億円。強いプロコンチネンタルチームで約2.8〜4.6億円(€2.1〜3.5m)。チーム名になるメインスポンサーになれば約7.9億円(€6m)、共同スポンサーでも約5.2〜7.6億円(€4〜5.5 m)に及ぶ。

スポンサー料を抑える自転車メーカーの秘策
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「一チームには通常120〜180台の自転車が提供され、選手を30人ほど抱える大きなチームだと200台近くにもなる。つまり選手一人に4〜5台、もしくは6台の自転車(ロード・タイムトライアル・山岳専用など)が与えられる。(いまの時代)全て電動シフトだが、選手によってはパリ〜ルーベ仕様など手動シフトも用意しなければならない。そこにリムブレーキとディスクブレーキが追加されると、台数はさらに増える。」

「通常、自転車メーカーは自社のグループセットを使っている。2016年シーズンでは3、4チームが大手コンポーネントメーカーから提供を受けているが、それは自転車メーカーにとってあまり喜ばしいことではないんだ。」

もちろんコンポーネントを提供するメーカーはブレーキ、ドライブトレイン、ホイールセット、ペダル、シートポスト、サドルやシューズに至るまで、全て自社製品を使ってほしいと願う側面もある。しかし、それでは”皆(チーム・自転車メーカー・コンポーネントメーカー)が幸せにならない構造”になっているのだ。その説明をしよう。

まず、自転車メーカーは全てを自社製品で組み上げるよりも、他社メーカーのコンポーネントを取り入れる方が1台にかかるコスト(部品の調達や開発・製造)を抑えられ、(自転車の台数によるが)おおよそ3,300〜6,6oo万円の節約に繋がる。

また、コンポーネント・メーカーにとっても自社製品が最高の競技レベルで使用されることに加え、チームとの契約の期間中、自転車メーカーの販売される自転車には自社製品の部品が使われることになる。(契約によるが)時にはチームが使用する自転車以外のモデルにも使用されることもある。つまりこれはメーカーにとっても販路が拡大するのだ。

最後に、チームも「コンポーネントを一社ではなく複数のメーカーと契約」した方がより多くの契約料を獲得できる。更に、自転車メーカーによる一台あたりのコストが安くなるということは、その分スポンサー料を上乗せが可能になり、より多くの現金を得ることができる。

自転車メーカーのスポンサードは利益に繋がるのか?
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2017年シーズンは16の自転車メーカーが参入している。純粋なスポンサー料と提供する自転車などの費用に加え、マーケティングスタッフ等の人件費を総合すると、年間5.3〜7.3億円ぐらいと見ていいだろう。

つまり違う言い方をすれば、自転車メーカーはチームとの三年契約の約20億円をチームの成功に賭けてるようなものだ。そして一般的な企業と同じように、その投資に見合った利益(結果)を期待している。

果たして、自転車ロードレースのチームにそれだけの費用をかけ、十分なリターン(利益)が期待できるのだろうか?

それは、また別の話だろう。