オリカの六年間を撮り続けた映像作家が語る、自転車ロードレースの未来

2017年のツール・ド・フランス。

圧倒的な力で4度目の優勝を果たしたクリス・フルームの横には、白い新人賞ジャージを身にまとったサイモン・イェーツと、2016年ツールでオリカを救った元チームメイトのマイケル・マシューズが立っていた。

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しかし、そんなオリカ選手たちの勇姿を6年に渡り撮影しつづけてきたダン・ジョーンズの姿は、パリではなく、遠く離れたオーストラリアの地にあった。

 「実はその時、子どもが生まれるからメルボルンに戻っていたんだ。」「だからもう家を何週間も離れ、チームに帯同することができなくなってしまった。」 

彼は子どもの誕生を機にチームを離れ、故郷で家族と時間を過ごすことになった。 

「離れることは残念だけど、とても楽しみなんだ。メルボルンで家族と過ごす生活が。」 

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自転車ロードレース界を変えたYoutube動画

レース前後の選手の様子やチームカー内部を撮影し、厳選された音楽とともにオリカの舞台裏を映したBackstage Pass。コアなファンのみならず、広い層にプロ自転車チームの喜怒哀楽を紹介してきた。 

ダン・ジョーンズはオリカ・スコットの専属の映像作家になる以前、二本の自転車ロードレースに関するドキュメンタリー作品(20052007年)を制作している。その後Fox Sportsに入社し20082011年のツールには撮影スタッフとして、2011年にはカデル・エヴァンスに密着し総合優勝を間近で撮影した。

その後、グリーンエッジ・サイクリング(現ミッチェルトン・スコット)設立の準備をしていたオーナーのゲリー・ライアンに声をかけられ、「いままでのチームがやってこなかったことがしたい」という言葉に共感し、自転車チームとしては異例の”専属映像作家”としてチームに加入した。 

「その頃は”ランス・アームストロングの件”のせいで、ジャーナリストと選手の間には大きな溝があったんだ。」 プロトンの中には様々な個性を持った選手がいるのに、それが(ファンに)伝わっていなかった。それを変えたかった。今までとは違うことをしたかったんだ。」

これはエンターテインメント・ビジネスだ

多くのチームが行う選手を”遠巻き”から撮影したものとは違い、ジョーンズの視点は自転車ロードレースのみならず、他のプロスポーツチームの広報映像とも一線を画している。

「とにかく楽しい動画になるように心がけている。僕の作品は必ず ”母や姉” を想定し、自転車レースのことを知らない人たちにも面白い内容になることを心がけているんだ。」「だから映像にはギヤ比など小難しい出てこない。そもそも僕が興味ないからね。笑」

「オリカvsスカイの五番勝負(2014年)」

レース中継では見ることができない選手たちの表情やキャラクター、チーム内の関係性などが伝わってくる。(まだ幼さが残るゲラント・トーマスやリッチー・ポート、この頃からオリカの中心であった元スカイのマシュー・ヘイマンなど興味深い。)

「2016年ジロ・デ・イタリア山岳ステージダイジェスト」

突如ジロ主催者から”レース映像の使用禁止”が言い渡された為、現地でおもちゃを買い込み、選手に模したおもちゃでレース展開を再現した動画。(ニバリがサメで、スカイが”帝国軍”と芸が細かい。)

選手からの信頼が、協力へ

「僕がもし選手の立場だったら、四六時中チームバスの中を撮影されるなんて嫌だと思うし、反対するだろうね。」「でも選手たちの信頼を得ることができれば、僕が撮影していることの”意味”を理解してくれると思ったんだ。」

実際『Backstage Pass』には、普段は観られないレース直前インタビューや、レース中の選手がカメラに向かって手を振る姿が多く観られる。そういった映像は、選手の個性を引き出し、ファンを獲得する”チームブランディング”として絶大な効果をもたらしている。だが、同じような試みを他チームは行っていない。あるいは真似をしたくても”できない”と言った方が正しいのかもしれない。

現にスリップストリーム・スポート(現EF・エデュケーションファースト・ドラパック)に密着したドキュメント番組『Blood Sweat and Gears』(2009年)は、チームスタッフの以下のような言葉で終わる。

「君たちはチームと一緒に入れてさぞ”楽しかった”ことだろう。でも僕らはカメラに付きまとわれた”クソな時間”を送らなければならなかったんだ。お願いだ。いますぐそのカメラを止めてくれ。」

つまり、ジョーンズの人間性が選手の心を開かせ、選手との間に「信頼関係」と「撮影がチームにもたらす価値」が十分に共有されているからこそ可能になっている映像なのだ。

その「信頼関係」が動画に現れているのが、自転車ロードレースでは異例の100万回以上再生された “Call Me Maybe” のパロディ動画だ。

着目すべき点は、ブエルタ(グランツール)のレース中にも関わらず”撮影に全面的に協力する選手たち”である。

カメラの横を通り過ぎる選手たちが”電話のポーズ”をし(1:44)、選手にとって晴れの場であるポディウム上でもカメラを見つければポーズをとっている(2:36)。

チャベス、マシューズ、ヘイマンの3つの奇跡

オリカの一員として六年間で535本の動画を撮ってきた。中でも特に気に入っているのが2016年のブエルタ第20ステージ」だという。チームの芸術的な”前待ち作戦”によりチャベスの総合順位を三位まで押し上げた、あの伝説的なステージである。

「このステージの動画には9、10個の異なるメッセージが含まれているんだ。」

「まず、頑固なボスだった監督ニールが”なぜか”このステージでは理知的な采配と、選手との円滑なコミュニケーションを見せた。」

「それに前待ちのキッカケを作ったハウソンや、総合五位という自らの順位を犠牲にしてチャベスを引いたサイモンをはじめ、9人の選手全員がレース前のプランを愚直に達成しようと懸命に走ったんだ。選手やスタッフの努力の成果が映っている、特に際立った動画なんだ。」

また、チームに三年ぶりのツール勝利をもたらした「マイケル・マシューズの勝利2016年第10ステージ)」を始め、精神的な支柱であるベテランアシストのマシュー・ヘイマンによる伝説となっている歴史的な「パリ~ルーベ制覇」など、挙げればキリがないという。

「通常は3時間ほどで終わる編集が、興奮のあまり三倍の9時間もかかったんだ。」

自転車ロードレースの未来

10年以上に渡り自転車ロードレースをレンズ越しに見つめてきたジョーンズに、このスポーツの未来はどう映っているのだろうか。

「一つ確実に言えることは、もっと多くのチームや競技が ”動画コンテンツ” に力を注いでくるだろう。僕たちがはじめた頃は映像を撮っているチームは非常に少なかった。だが、普通に動画を撮って流すだけでは十分なメリット(視聴者数)を得られなくなっている。動画を短く・わかりやすく・刺激的にしないと誰も観てくれなくなってしまった。」

「また、iPhoneiPadの進化によって”手軽さ”がキーワードになっていく。それが未来だ。」

Velonの取り組み(Goproを使用したオンボード映像など)は、レースと視聴者の相互性を高めている。5年もすれば、視聴者は自分でバイクカメラやヘリ映像などを自由自在に切り替えて観戦できるようになるだろうね。」「また、ここ最近の発展をみていると”ヘリ撮影がドローンに取って代わる未来”も遠くはないはずだ。」

「観客はとにかくスマホなどを使った手軽な観戦を求めている。リビングのソファに座ってテレビ観戦するなんて人はどんどん減っていくだろうね。」

All For One

Backstage Pass』の終焉は、いちチームの広報コンテンツが終了した以上の意味を持つだろう。近年はツイッターやインスタグラムを使い、スタッフや選手自身による動画の投稿が当たり前になってきている。

もしかしたらチームが時間をかけて撮影・編集をするYoutube動画の役割は、終わったのかもしれない。だが、自転車ロードレースのチーム独自の映像配信の礎を築いたのは、ダン・ジョーンズが作り上げた『Backstage Pass』に他ならない。

そして、彼が撮り続けた5年間が一本の映画になった。

「レースが終わった後には記憶しか残らない。写真もいいし、記事だって悪くない。でも、映像にはその過去を呼び起こす力があるんだ。映像には、宝箱のようにワクワクさせてくれる力があるんだ。」

“Once the race is done, all you have is memories. Photos are good and stories are ok. But the fact that you can go back and watch some of these… it’s like a treasure chest”

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翻訳・参照した記事

RIDE Media
Road Cycling UK
Rouleur
Euro Sport:Orica: That’s a wrap for ‘Backstage Pass’ producer Dan Jones
Cycling Central:Tan Lines: Beyond the Backstage Pass
Greenedgecycling: ‘Post Dan Life’