【前編】ランス・アームストロングによる「ロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)」評

ランス・アームストロングのポッドキャスト番組『STAGES』が「ロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)」を評していたので、一部抜粋して翻訳しました。

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個人ではなく、チームの勝利

ランス・アームストロング(以下ランス):自転車ロードレースは個人競技だと勘違いされている。確かに今日勝利したニキ・テルプストラは、独走でフィニッシュまでやってきた。レースを知らない人ならニューヨークマラソンと同じように単純に”テルプストラが他の選手より強かった”と見えるだろう。しかし、この放送を聴いているようなファンは知っていると思うが、今回の勝利はクイックステップというチームが他を圧倒した勝利だった。つまりチームの勝利なんだ。

ーーわからない人には選手が好き勝手やっているように見えるよね。特にワンデーレースのクラシックでは。

対象的に、今大会の大本命サガンにはチームメイトがいなかった。彼は個人での勝負を強いられていた。

ーーなるほど。そういえば、沿道で沢山の人が石畳区間のタイヤを持っていた。各チームはあんなに沢山のスタッフがいるの?

あれだけ狭く険しい石畳のあるレースでは、チームカーが到着するまで時間がかかりすぎるんだ。つまりチームと関わりがある人なら誰でもいいってことだろうな。バスの運転手でも、本社の人でもいいんだろう。

ーーそもそもチームカーが石畳区間に入らず迂回するところもあったよね?

もちろん。車にとっても危険だからな。だからこそチームは人をかき集め、チームジャージを着せ、タイヤやボトル、ジェルを渡して沿道に立たせるんだ。

ーーパンクした選手を沿道のお客さんが直しているシーンなんて初めて観たから面白かったよ。あと気になったのが選手のウェアだ。レッグウォーマーにジャケットとフル装備している選手もいれば、真夏と同じ恰好をしてる選手もいた。あの違いはなんで?

国の違いだろうな。ロシア出身とコロンビア出身の選手が同じ耐性なワケがないだろ?今日のレースは冷たい雨が降るなか始まったが、フィニッシュする頃には道路も乾き太陽も出ていた。この後晴れると無線で聴いた選手たちは早すぎるクリスマスを味わっただろうな。

中には最初から”完走する気がない選手”もいただろうから、多少身体が冷えて動きやすい状態で走りたいと思った選手もいたはずだ。最終的に逃げた二人が対象的だった。片方がフル装備なのに、もう一方はグローブすら付けてなかった。「4時間逃げてお勤め終了」とでも考えていたんだろうな。

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トム・デブリエント(ワンティ・グループゴベール)とイバン・ガルシア(バーレーン・メリダ)

近代化するクラシック

ーー今回のフランドルで面白かったのが、一度通った石畳を再度走るコースレイアウトだ。つまり沿道のお客さんは選手を何回も見れる。これは素晴らしいよね。

それがワウター(主催者)の偉いところだ。彼はレースの近代化を目指し様々な試みをしている。確かに批判もあるだろう。昔のようにへラーヅベルヘン(カペルミュール)を通ってフィニッシュすべきだという意見もあっただろう。でも彼はフランドルの象徴となるとなるオウデクワレモントを三回走らせ、そこに観戦席とビアガーデン、巨大スクリーンを設けたんだ。1930年代から変化のなかったフランドルを近代化させた。実際、観客の盛り上がりと熱気は凄まじいものだった。彼は自転車ロードレース界全体が必要としてるヴィジョンを持っている。

ーーお客さんはスクリーンを観てて選手が近づいたら沿道に出て応援すればいいんだから最高だよね。もう一つ話したかったことが、石畳ではない一般道のコンクリートの種類がどこも異なって見えた。あれはなんでだい?

アメリカのほとんどはアスファルトで舗装されているが、フランドル地方はコンクリート自体はとても綺麗なのだが、左右で素材が違うところが多いんだ。当然、その境目には溝が生まれる。たった2~3センチの段差でも、そこに時速50km弱の自転車の前輪がハマったらそんなことは考えたくもない。そうならない為に選手はホッピングしたりするんだが、そんなこと集団の中で毎回できるわけがない。しかも雨が振っていた。それが今日のレースで起こった落車の要因だろうな。

ーー今日のレースで最も衝撃的だったのが、ある選手が落車し、道路脇まで転がり、選手を止めたのが有刺鉄線だった。

EFの選手(ミッチェル・ドッカー)だ。

ーー選手が有刺鉄線に捕まるとか普通のスポーツではありえないよね。

まぁな。それが自転車ロードレースだ。

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ーーベルギー人は幼い頃から石畳を走ったりするのかい?

もしベルギーのフランス語圏(南部ワロン地域)で生まれたらその経験はないかもしれないが、フランデレン地域(オランダ語圏)に生まれた自転車選手であれば、石の一つ一つを把握しているぐらだろう。それがホームアドバンテージってやつだ。

ーーテキサスの人間が暑さに慣れているように?

ああ。最近の俺は耐えられなくなってきてるけどな。歳かな俺も。笑

ーーパテルベルグ(残り52kmと13km地点)と呼ばれる区間について話そう。

レースを観ながらウィキペディアで調べていたのだが、「ツール・デ・フランドル」の登りにはそれぞれの(独立したページで)歴史や名前の由来が書かれているんだ。それがまた面白くて、このパテルベルグという登りは1986年まで未舗装だったんだ。それを地元のオッサンが自分の家の近くをレースを持ってきたくて自ら舗装したらしい。

ーそれホント?勝手に舗装したの?

ああ。400mの長さをだ。この番組でもベルギー人の自転車競技への情熱については話してきた。その農夫がどこの誰だか知らないが、物凄い情熱だ。

ーーベルギー人の自転車愛を象徴したエピソードだね。

空白の女子レース

フランドルは男子に先立ち女子レースも行われていた。だが、ラスト30分になっても映像は入ってこなかった。その頃の男子レースに大した動きがなかったのにも関わらずだ。

ーーたしか男子は残り85kmぐらいだったよね。

画面を半分に割るとか、交互に映すとか方法はいくらでもあったはずだ。そうするべきだった。

ーー男子に動きあれば後からリプレイを流せばいいんだからね。

30分でも女子に放送時間を割くべきだ。

ーー女子のレースが残り15kmを切ったと伝えていたので、ラスト5km~10kmぐらいは映すのかと思いきや映像はなかった。本当に残念だよ。

それじゃそろそろレースついて詳しく話していこう。

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今回のクイックステップはただただ素晴らしかった。3位以内に2人、10位以内に3人が入った。レースを完璧にコントロールしていた。それに引き換えサガンは一人だった。ダニエル・オス(31歳/イタリア)がいたが、その後のサガンはずっと単独だった。他のチームはサガンだけをマークしていればいいのだから、サガンにとっては難しかっただろう。

強調しておきたいのが、ニキ・テルプストラはチームが良かったから勝てたわけではない。グランツールを全て制し、今季は『ミラノ~サンレモ』で勝した最強ニバリが単独でアタック(残り27km地点)、テルプストラがブリッジをかけ、しばらく二人で走り、その後緩やかな登りでニバリを引き千切ったんだ。別にニバリがやる気をなくした訳ではない。付いていこうとしたのにできなかったんだ。190cmある選手が、グランツール全制覇のニバリを置き去りにしたんだ。クソ凄い。凄すぎる。信じられない。

ーー勝因はクイックステップの作戦・戦術だけではなかったということだね。力で勝った。

テルプストラは『パリ~ルーベ(2014年)』も勝ってるし、先週の『E3・ハレルベーク』も勝った。そのレース情報のすべてをStravaにアップしているのも興味深い。今回のフランドルもおそらくStravaに上がるだろう。『パリ~ルーベ』で優勝したデータがStravaで見られるんだ。凄すぎる。

ーー僕はStravaについてよく知らないのだけど、その情報は他のチームに利用されたりしないの?

フランドルのような(ワンデー)レースのデータは役に立たないかもしれない。メカニック的にも戦略的にもイレギュラーが多すぎるからな。だがグランツールでは間違いなく分析され、他のチームには有益な情報になるだろう。フルームも今年Stravaに情報をアップしていたがこれには正直驚いたよ。彼ほどの(総合で優勝争いする)選手が公開するなんてな。

話を戻そう。テルプストラはニバリを振り切って単独になった。だが忘れてはいけないのは、このとき後ろの集団にはクイックステップの選手が3人いたことだ。バックアップや動きのカバーの要員としてな。その意味は大きい。もしテルプストラが文字通り単独だったら、その動きは変わっていただろう。

サガンの本音

ーーその後、サガンがブリッジをかけ単独追走を試みた。結局上手く行かなくて集団に吸収されたんだけど、あれは作戦?それとも感情に従っただけ?

ブリッジを本気でかけられると思ってのアタックだったとは考えにくい。

ーーじゃあ三位を狙うためだったということ?上手く行けば二位を狙えたと?

うーん。それもあるかもしれないが、たぶんサガンはフランドルの三位とかどうでもいいだろうな。二位でも負けだよ、サガンにとっては。それより、レースを観てたらジョージ・ヒンカピーからメッセージがきたんだ「サガンは呼吸をしていない」って。集団の登りでサガンだけが呼吸をしていないように見えた。

ーー君の表現を借りると「鼻に指を突っ込んでる」ように見えた。他の選手が辛くて舌が出ているのに。サガンについて聞きたいのだけど、彼のような選手がチームの力不足によって勝てないのはどういう気持ちなんだい?サガンは今のチームで満足しているの?それとももっと大きなチームに移籍したいと思ってるのかな?

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(後編につづく)

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