総合上位勢によるアタック合戦が繰り広げられた第13ステージ。フランス独立記念の日に勝利をあげたのは、山岳賞ジャージを着るフランス人のバルギルでした。
その中でもファンの熱を上げたのが、逃げに乗ったコンタドールだったのではないでしょうか。かつてチームメイトだったコンタドールとの秘話などが聴けるのかと思っていたのですが、話は “スカイのランダとフルーム” という思わぬ方向へ。
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ランス:
きっとみんなも「どうして今日のような短く激しいステージを増やさないんだろうか」と思っているはずだ。それだけ沢山のアクションがあったし、おまけにフランスの独立記念日でもあった。
そしてフランス人のバルギルが勝った。興味深いことは彼が “サンウェブというドイツのチーム” にいることだ。フランス国中が “フランス人の勝利” を祝っているけど、ツールに出ているフランスチームは誰も彼を祝ってはいない。笑
バルギルは 25歳。183cmで60kg? それはすごいな。
ー 僕が高校生の時、こんな体型だったよ。笑
ランス:
ツールを観ている人ならわかると思うけど、この選手は2、3年前にコロンビア人のウランとゴール前で争い、勝ったと思ってガッツポーズをしたんだけど写真判定で負けてしまった、あのライダーだ。
しかしこれで名誉挽回だ。しかも(フランス人の彼にとって)これほど相応しい日はない。
よかったよね。僕の好きなジャージ(山岳賞ジャージ)も着ているし。
ー ツールでのステージ勝利は相当キャリアに影響するよね。フランス人にとっては特に。
もしある自転車選手がプロになって10年勝てなかったとしよう。でも10年目のツールで逃げステージ勝利を収めたとしたら、その選手のキャリアは成功だと言うことができる。それぐらいのものなんだ。ツールのステージ勝利というものは。
ー ところで、本題に入る前にキミにプレゼントがあるんだ。
ランス:
ホントかい?これ、コンタドールと同じ ”ピンクの笛” じゃないか!
俺はいままでいろんなプレゼントを貰ってきたけど、これは凄い。(ツール優勝トロフィーが飾ってある)この棚に飾る価値のあるプレゼントだよ!
そのコンタドールが今日の第13ステージでは試合の開始を告げる攻めをした。そのことに驚くファンはいないだろう。みんなもう彼は自分に総合優勝の可能性が無いことを知っているし。彼もステージ勝利が必要だと語っていたしね。だからコンタドールがレースを動かすきっかけ作ったことに驚きはしなかった。
むしろ驚いたのは、その後のレースの動きだ。
昨日の第12ステージのゴール前、たった約300mの激坂でフルームはタイムを失った。現地の情報によると彼は”燃料切れ”を起こしたようだ。
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ここに来るまでのフルームは調子が良く見えた。まあ 彼の調子良し悪しは本当にわかりづらいから、”良さそうに見えた” だけだけど。だから今日の第13ステージのフルームも調子が悪いと思っていた。しかし今日、彼は自らアタックを仕掛けたんだ。それによって選手がふるい落とされた。
ー フルームはとても…ダラっとしたフォームをしていて、まるで怪我でもしているかのようなのに、顔をみるとフレッシュで脚のキレがある。いままであれだけ調子の良し悪しがわからない選手はいた?
ランス:
フルームのフォームは正統ではない。だけどその ”調子の読み取れなさ” はライバルたちへ有利に働く。ライバルたちには互いをよく知っている。だからいつもより汗をかいているか、ジャージに塩がついていないかなど観察をし合うんだ。その中でもフルームはわかりづらいと思うけどね。
ー 選手は調子が悪いフリとかしないのかい?
もちろんするだろうね。俺も2001年に一回したことがある。追い詰められたフリ(Ropeadope)をした。
確かに効果はあったよ。でも極端にやりすぎてしまって、二度目はなかった。次は確実にバレてしまうからね。
ー さて、昨日フルームはアルにマイヨ・ジョーヌを受け渡した。また、第12ステージの激坂でフレッシュに見えたランダが、自らステージ勝利を取りに行ったように見えた。しかしキミは、あれはチームとしての走り(つまりフルームの為にタイムボーナスを消しにいった動き)だと言ったね?そして、ゴール後チームバスの前で、ランダとチームスタッフが口論しているシーンがテレビに映った。
ランス:
チームスカイのディレクター、ニコラス・ポータルとだ。
ー そして今日、ランダはコンタドールと逃げた。いち観客として、チームスカイの戦略が知りたい。
ランダはもうフルームのアシストではなく、自ら勝ちに行っているのかい?それともチームに二人の総合上位を狙う為のチームの戦略なのだろうか?
ランス:
ちょっと待ってくれ。その前に、この問題の本質を捉えないと。
ツール・ド・フランスで毎回起こっていることがある。一般的で伝統的なことだ。それは、
チームは、次の年にチームを離れる選手を、ツール・ド・フランスには連れて行かない
ということだ。翌年もチームに所属することをチームと約束した選手しかツールには連れて行かないんだ。ミケル・ランダは、来年チームスカイを離れる。来年はモビスターと契約をするんだ。しかも、その契約はすでに結ばれている。(done and dusted)
ー つまり彼が何をするかわからないってことだね。(フルームのアシストではなく自らの勝利の為に走る可能性がある)
ランス:
そうだ。わからない。それが昨日(第12ステージのゴール前)、わずかだがに垣間見えた。自転車界では8月1日になるまで、移籍や新たなチームと契約することはできない。実質的にはね。でも、いまそのルールは守られてはいない。とにかく、ランダはチームを離れるんだ。
俺がクリス・フルームだったら、現時点でチームに仲間は6人しかいないと考える。来年もチームにいて、忠誠心があり、強く、仕事を全うする仲間がね。あくまでも俺の意見だけど。
ー じゃあ、ランダが今回のチームに入ったのは驚きかい?
ランス:
まあね。でもフルームにメンバー選定の決定権はないし。
ー でもチームへの影響力はあるだろう?
ランス:
まぁそうだけど。今日の第13ステージで興味深かった出来事があった。レースが終わってランダがチームバスに戻って行った時、バスの前にチームスカイのディレクター、ニコラス・ポータルがいたんだ。しかし、ランダとポータルはハグもハイタッチもしなかった。何の祝福もなかったんだ。ランダは素通りしてチームバスのなかに入っていった。なんだあれは?
ランダの被害対策としてチーム・スカイは、ポータルとランダが “仲良し” だという声明を発表するべきだと思う。まあ絶対にありえないとは思うけど。とにかく、チーム・スカイの中にはドラマがあるんだ。そして今日のレースに戻ってみよう。コンタドールが逃げた。一緒に逃げたのは?
ランダだ!
最初はコンタドールにつくだけだったが、その後コンタドールと協力をし始めた。とても良い協調体制だった。総合上位グループと良いタイム差も稼ぐことができたし。
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後ろでは山岳賞バルギルとキンタナ、そしてチーム・スカイのクヴィアトコフスキーが追っていた。テレビではクヴィアトコフスキーは苦しんでいたから後ろのグループに下がったと言っていたが、それは違っていて、チームからフルームの元に戻るような指示だった。それはチームとしては完璧な作戦だ。しかし、コンタドールと共に逃げていたランダのグループは、マイヨ・ジョーヌグループには戻らない。つまりランダには願ったり叶ったりの展開だった。
チームの選手はみな一緒のバスに乗り、一緒に夕食を取る。きっとチーム・スカイの中には、緊張感があるだろうね。そしてその原因は、ランダが来年チームを離れるという事実だ。
ー 同じチームに勝ちたい思っている選手が二人いた場合、どちらも落ちてしまうという歴史が度々起こっているよね。もしそれがチーム・スカイに起こっているのだったら…
ランス:
実際に起こっているよ。俺が2009年に現役復帰したアスタナにはコンタドールがいた。夕食を囲むテーブルチームに漂う緊張感を、俺は知っている。チームバスの緊張はよくないものだ。
ー 監督とマネージャーは何もしないの?
ランス:
想像するしかないが、夕食を囲むテーブルでは誰がボスでリーダーであるかがわかるんだ。難しいのは、チームの半分が一人について、もう半分が違う一人につくことだけど、チーム・スカイのボスは一人だ。フルームだよ。
ー ところで話はかわるけど、フランス独立記念だった今日のステージで、フランス人選手は二つ目の山岳からスタートできたって本当かい?笑
そうなの?笑
昨日あったペナルティのことを話す前に、俺たちの話によく出てくる ASO や UCI という組織について説明しておこうか。
(後編につづく)
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