20回連続グランツール完走記録(2011~2018)を持つ”鉄人”、そしてプロ自転車選手でありながらビーガンとしても知られるアダム・ハンセン(オーストラリア/38歳)。
彼の”食”に関するこだわりについて、英国人ジャーナリスト3人によるポッドキャスト番組TheCyclingPodcastが迫った。
「僕はビーガンだ。動物性の食べ物は取らない。パスタや小麦粉といった加工食品ではなく、自然食品を食べている」
なぜハンセンはビーガンになったのか。そのキッカケは幼少期まで遡る。
「(子どもの頃は)一般的な生活だったよ。でも、生まれながらにして乳糖不耐性*だったんだ。そして多くの乳糖不耐性の人と同じように、乳離後に乳製品を日常的に取ることによって耐性ができたのだけど、17歳の時に1年間だけ乳製品を止めてみたんだ。そしたら再び不耐性となり、それ以降は乳製品は口にしていない。その頃から肉は食べていたが、外食だけで家では全く口にしなかった」*牛乳およびその他の乳製品に含まれている糖の一種である乳糖を、消化もしくは吸収することができないこと。
ビーガン(絶対菜食主義者)とは気候変動や動物の処遇への懸念、また健康な食生活への関心から、肉類や魚介類はもちろん卵や乳製品を一切口にしない人のことを指す。
アメリカにおけるビーガン人口が2,000万人を越えるなど年々その数を増しており、本ブログでも取り上げたようにツール4勝するクリス・フルームもビーガンへの転向を自身のインスタグラムで宣言した。
競技に支障は何もない
自転車ロードレースはプロスポーツの中でも特にカロリー消費量が激しく、多い時は1レースで6000Kcalも失うと言われる。その失われたカロリーを、肉や乳製品を取らず、植物性植物だけで十分に摂取できるのだろうか?
ハンセンは「何の問題もない」と自信をもって語る。
「一番多く消費されるエネルギーは炭水化物だ。だから(ビーガンであっても十分な栄養補給は)難しくない。僕の朝食を見てもらえば分かるが、他の選手と変わらない。ただチーズとハムがないだけ。それにクロワッサンとパンも(食べない)」
「実際チーズを食べることはレースに必要ない。ハムやベーコンといった第一食品群の加工食品もそうだ。ガンの原因にもなるからね」
日々の食事だけなく、レース中に摂るジェルやレース後の粉プロテインもビーガン仕様。
「レース後は(他の選手同様に)粉プロテインを取るが、植物性のものしか取らない。いまはエンドウ豆と米のものだ。以前は大豆のプロテインを使っていた」
補給食に関してはレース前に自身で調合する専用ジェル一本。それによりサコッシュをスタッフから受け取る必要がないのだと、自身のYoutubeチャンネルで語っている。
「みんな気づいていないだけで、実は多くの食べ物はビーガンだったりするんだ。補給ジェルの全てはビーガンだ。一つや二つビーガンではない動物性を使っているメーカーもあるが、そもそも(配合する)必要がない。ちゃんとしたジェルはグルコースとフルクトースの配合・割合の違いしかない。それに動物性は必要ない」
レース前のプロテインは無意味
ビーガンであることよりも、各栄養素を摂取するタイミングの重要性をハンセンは力説する。
「それに(朝食では)タンパク質も取らない。レース前のタンパク質を摂取する意味はゼロ(どこにもない)だからね。タンパク質をとることによって行われるタンパク質合成は、レース前ではなくレース後に行われるんだ」
ハンセンは自家製プロテインを動画でも解説している。レース直後にプロテインドリンクを作り、食事前に摂ることをステージレース中のルーティンにしているのだ。
専属シェフ不在でもビーガンは可能
豊富な資金でキッチンバスと食事専用バスがあるイネオスとは違い、ハンセンが所属するロット・スーダルにはバスどころか専属シェフもいない。
グランツールで日々変わるホテルでの食事で、制約の多いビーガンとして苦労はないのだろうか?
「(専属シェフ不在は)食事に制限はされるが、不可能ではない。主食となる米やジャガイモはあるから炭水化物も、身体にゆっくりと吸収される炭水化物も摂れる」
ハンセンはビーガンであることの不便さよりも、他の選手の食事に対する意識の低さを危惧する。
「(チームが用意する食事には)質の良いサラダや野菜も用意されている。これらに関しては多くの選手が不足している栄養素だと思っている。他の選手の食事を見ていると、パスタや肉ばかりで栄養的に良くない。(グランツールでは)毎日選手たちは食物繊維の摂取をサボってしまうのは健康的に好ましくない。山岳ステージの前に、身体に水分を残さない為に食物繊維を控える選手がいるが、それは(山岳に挑む上で)健康的な方法ではない」