長い方が速くなる?アダム・ハンセンが180mmクランクを使う理由

前乗りや幅狭ハンドル、短いステム(前傾したステム)に後退させたクリート位置など、常にポジションの先駆者になり続けてきたアダム・ハンセン。

そんな鉄人(186cm)のクランク長は180mmだという。なぜハンセンは規格外に長いクランクを使うのだろうか?

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テコの原理

「パワーとはトルク×RPM(1分の間での回転数)だ。より長いクランクであればペダルにかけるトルクがより小さくてすむ」

「例えば車の(タイヤの)ナットを外すとき、短いレンチだとテコの力が加わらないが、長いレンチだと簡単だ。より小さな労力で同じ力を出すことができる」

だがアダム・ハンセンは186cmと長身。長いクランクは、出力値の高い高身長の選手にしかその効果がないのではないだろうか?

ハンセンはこう説明する。

「身長で言えばパンターニも180mmのクランクを使っていた」

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1998年にジロ・ツールのダブルツールを達成したマルコ・パンターニ(172cm)は、山岳ステージで180mmのクランクを使っていたと言われている。

キンタナは172.5mm

ハンセンの理論で言えば180mmでも足りないのだと言う。

「選手の脚の長さとクランク長の比率で言えば、僕はとても短いクランクを使っていることになる」

んん?どゆこと?

「例えばキンタナと比べて、僕の脚は40%ほど長い。だけど40%長いクランクを使ってはいない。せいぜい5か4%ぐらい長い程度だろう」

ハンセンは比較するナイロ・キンタナの身長は167cm。しかしクランク長は172.5mmと、比較的長いものを使っている。

ハンセンいわく、現在のロードバイク界にクランク長の種類が少ないことをメーカーの都合だと結論付けている。

「だって、自転車ショップに20種類のクランクを置いておけないだろ?」

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他のプロの意見は?

最適なクランク長の議論に関しては、数多あるギークな自転車ブログに任せるとして、クランクに関するプロ選手のインプレッションを紹介。なかでも興味深いのが、與那嶺恵理選手が170mmから165mmへ変更したことについて書いたnoteの記事だ。

結論から言います。
「乗ったフィーリングは、うん、よくわかりませんでした!」

(中略)

クランクを短くした後から確実に、トレーニング中のアベレージパワーが落ちました。(あくまでデータ上の話)つまり同じフィーリング、主観強度で乗っててもパワーが少し低く出るんですよね。

(中略)

じゃあ結局遅くなっちゃうんじゃないの?って思われるかもしれないのですが、回しやすくなった分、ケイデンスが少し上がって、大きい回すものが短く(小さく)なったので、ひとペダルごとの仕事量は減って、回転数が増えたというわけです。

つまり、フィーリング(登りの辛さも笑)は変わらないが、短い方がパワーの節約になっているということだ。リンクはこちら

続いては、現在五輪代表権争いで第5位につけている伊藤雅和選手(愛三工業レーシング)のブログから。

167.5mmを付けていた時は今日は脚がよく回るなと練習中に感じていて、チームメートと一定ペースで走る分にはいつもより体力を温存できている感覚でした。
その後おもいっきり踏んでみたところ、いつもより速度が出なかったのです。
特にダンシングと呼ばれる立ち漕ぎの時にいつもよりパワーが出なくて、スピードに乗れない感覚でした。
ただしその全力走した時や速度がかなり上がった時以外は楽に走れてる感覚でした。

172.5mmのクランクを付けていた時は全くの逆でした。チームメートと一定のペースで走ってる時に体力を多く使ってしまっている感覚でした。休みづらいのです。一定ペースで距離を走ってからの速度が上がってた時もそれまででかなりいつもより疲れているのであまり踏めることはなかったです。しかし距離を走ってからではなく1分全力、2分全力など短い時間の全力に集中した場合では「ダンシング」でパワーが出るので速かったです。
そして練習後に凄く疲れる感覚がありました。

その試行錯誤の末、170mmがベストだという結果になったのだという。與那嶺選手と似た結論になっている。

ちなみに、昨季限りで現役を引退した初山翔元選手がロングインタビューで語っていたクランク小話も、長い短い議論関係ないけど興味深い。

なんと半年間、左右で違う長さのクランクを使っていたというのだ。

「SRM使ってて、電池交換に出したんだよね。2013年の終わりに。そうしたらSRM側のミスで、165mmなのに167.5mmのクランクをつけて返してきてたのよ。こっちは疑わないじゃん。165mmだろうと思って、右が167.5mmで、左が165mmだったのよ。それでずっと半年走ってたっていう。」

しかしその期間中に故障はなく、ツール・ド・シンカラでステージ3位に入るなど結果を残したという。

速くなりたきゃ長いクランク、疲れたくなきゃ短いクランクをつけろってことで…OKですかねハンセン先生?

でも180mmクランクがどんな感じなのかめっちゃ興味あるー。