テイオ・ゲイガンハートによる劇的な逆転優勝によって幕を閉じた2020年ジロ・デ・イタリア。今大会は優勝候補として挙げられていた選手たちが軒並み姿を消すサバイバルなレースとなった。
開幕前に高いオッズを付けられていたのはゲラント・トーマスやフルサン、クライスヴァイク、そしてウィルコ・ケルデルマン。だがトーマスの落車を皮切りに、総合優勝候補の選手たちが次々と遅れ、脱落していった。
その中でも最後まで残っていたケルデルマンも、クイーンステージとなった第18ステージで優勝したゲイゲンハートやチームメイトのジェイ・ヒンドレーにタイムを奪われ、あと僅かなところで総合優勝を逃し、総合3位に沈んだ。
ランス・アームストロングの7連覇を参謀として支えたヨハン・ブリュイネールは、その原因がサンウェブのチームカーによるある行為にあったと語る。
計画通りのはずが…
「サンウェブが犯した最も大きな誤ちは、戦術的な判断ではなく、選手を支える側としての(兵站学的な)判断だ」
ケルデルマンが総合優勝を逃すきっかけとになった第18ステージを、いまだ自転車界に影響力のあるブリュイネールはこう評論する。
この時点でマリアローザを着用していたのはドゥクーニンク・クイックステップのホアン・アルメイダ(ポルトガル)。新星のごとく現れた22歳の若手を振り落とすため、サンウェブは山岳アシストを使い、ステルヴィオ峠(標高2,758m)の麓から速度を上げる。
計画通りそのアルメイダが遅れ始めるが、集団の牽引がサンウェブからイネオスのローハン・デニスに代わると、今度はバーチャルでマリアローザであるケルデルマンまでもが遅れてしまう。
この時点でデニスのハイペースについていくことができたのは、総合で大幅ジャンプアップを狙うテイオ・ゲイガンハート(イネオス)と、ケルデルマンのチームメイトであるジェイ・ヒンドレー(サンウェブ)。
そしてこの三人とケルデルマンの差はみるみる離れて行く。
エースを見捨てたチームカー
先頭3人とケルデルマンの差は、ステルヴィオ峠頂上を越えた地点で45秒に広がり、約20kmの下りを終える頃には1分21秒まで広がった。
しかし依然としてバーチャルで総合トップに立つケルデルマンは、単騎で前の3人を猛然と追いかける。
そして1級山岳ラーギ・ディ・カンカノ(全長8.7km/平均6.8%)に挑む直前の平坦区間で、問題のシーンがやってくる。
「レースでは各チーム2台のチームカーが走っている。サンウェブはそのうちの1台だけしか先頭に帯同させなかった。2台目をグルペット(後方集団)に残してだ」
残り17.4km地点。サンウェブのチームカーは長い下りを終えたケルデルマンにボトルを渡すと、間髪入れずに先頭にいるヒンドレーの元へと走り去っていった。
それに対し手を挙げ、頭を振り不満を表したケルデルマン。
このチームカーによる行為がきっかけとなり、ケルデルマンのジロが終わったとブリュイネールは分析する。
「これが犯してはいけないミスとなった。彼らは2台とも先頭集団につけておくべきだった。1台目は(先頭の)ヒンドレー。2台目はケルデルマンにだ」
「あの瞬間、ケルデルマンは精神的に終わってしまった。みんな見ただろう?彼が首を横に振っていた姿を」
「彼はチームに見捨てられたと感じたはずだ」
移籍組を冷遇する悪しき慣習
このステージで勝利を上げたのは、ゲイゲンハートの後ろで脚を溜めていたジェイ・ヒンドレー。ケルデルマンは何とか遅れを最小限に食い止め、マリアローザを着用することになったものの、翌日の山岳ステージでも遅れ、チームメイトであるヒンドレーに総合リーダーを譲ることとなった。
しかし得意の個人TTで争われた最終日の第21ステージでは、ゲイゲンハートに3秒差をつける11位で総合3位に入った。
「この事態は十分に想定できたはすだ。そうすれば両方のチームカーを先頭に付けることができた。どちらか一方の選手ではなく、ヒンドレーとケルデルマンの両方をサポートできたはずだ」
来季はボーラ・ハンスグローエと2年契約を結んだケルデルマン。一方ヒンドレーは2021年末まで契約を残し、加入するロマン・バルデとともにサンウェブの将来を担っていく。