メリダ乗りは読んじゃだめ。ランスの2019年ツール第13stレビュー

今大会一番の衝撃だったのではないだろうか。

フランス南部に位置するポー市内で行われた第13ステージの個人タイムトライアル(27km)は、逃げ職人トーマス・デヘントがジロに続き好タイムを出し長い間ホットシートに座ると、総合2位で優勝候補筆頭ゲラント・トーマスが22秒差をつけて首位にたった。

このままゲラント・トーマスのステージ勝利と思われたが、マイヨ・ジョーヌを着用したジュリアン・アラフィリップが、2位と14秒差をつける圧倒的なタイムで勝利した。

マイヨ・ジョーヌマジック

選手の能力を限界値まで引き出す総合リーダージャージの力については度々言われてきたが、アラフィリップが決して得意とは言えない個人TTでこれほどの走りをするとはまさにマジックと言わざるを得ない。

ランス・アームストロング:言葉では言い表せない走りだった。

ーーロックスターだったね。

ジョージ・ヒンカピー:あのパフォーマンスにはびっくりしたね。

ランス:誰が予想できた?誰もできなかっただろう。昨日言ったようにイエロージャージは守ると思っていたが、タイムトライアルで首位になとは…

ヒンカピー:30秒程度失うと予想していたもんね。

ーーみんなそんな予想だったね。

(中略)

ヒンカピー:最初のタイム計測で6、7秒をゲラント・トーマスを上回っていた。しかし登りで数秒タイムを失うも、下りとフィニッシュまででその失ったタイム差を戻したんだ。

ランス:第二計測では10秒差だったな。

ヒンカピー:ゲラント・トーマスのようなTTスペシャリストではない彼の走りは、驚異的だった。

ランス:驚異的ということは、つまりヤツはしばらくマイヨ・ジョーヌを守るということか?

ヒンカピー:ああ。守れると思う。

ランス:マジか。それについてはわからんが、ヤツは俺たちを驚かせ続けているから反論はしない。

ーーみんなマイヨ・ジョーヌの力の話をしているよね。

TTバイクでスーパータック

ランス:ジュリアン・アラフィリップはコーナーだけでどれだけのタイムを稼いだかは言う必要もないくらいだが…

ーーそれと下りでもね。

ランス:ヤツはスーパータック(トップチューブに座る走行方法)をTTバイクでしていたんだ。それを見て俺が何を思ったから分かるよな?

ヒンカピー:それにアラフィリップのフォームはゲラント・トーマスみたいにエアロではないのにも関わらずあのパフォーマンスなんだからね。

ローハン・デニス棄権の裏にTTバイクへの不満?

この前日の第12ステージ途中でリタイアしたバーレーン・メリダのローハン・デニス(オーストラリア/29歳)。今ステージの優勝候補の一人であった世界選手権王者に何があったのか。ランスとジョージがわずかな情報から考察した。

現在も明確な理由はチームから発表されておらず、二人が語っているのはあくまでも憶測に過ぎないことを念頭に置いていただきたい。

ランス:ローハン・デニスについて公式には何の情報も出てきてはいないが、昨日のステージで突然棄権した。どうやら原因は自転車への不満にあったらしいな。

ヒンカピー:それが(多くのメディアによって)言われている情報だね。あるソースによると彼は前所属チーム(BMC)からバイクを借りて(現行のバイクと)全く同じポジションにしたらしい。そして年の始めにテストしたら、ポジションは全く同じで出力するワット数も全く同じだったのに、40km以上走って1分も遅かったそうだ。

ランス:そんなの信じられない。このレベルでそんな…

ヒンカピー:これが棄権した理由なのかは正確にはわからないが、そんなバイクに乗って懸命にレースすることを考えてみてよ。彼はTTの世界王者なんだよ?プロトンで最もTT力のある選手だ。

ランス:それに(今回の)コースも完璧に(デニスに)向いていた。

ヒンカピー:世界一になった時と寸分違わぬワット数を出しているのに、バイクのせいで1分を失い負けるなんて、ツールを走る本人の自信的にも、精神的にも辛いだろう。これが棄権の理由かはわからないけどね…

ランス:それがたとえ30秒でも辛いだろう。しかしそんな遅い製品があるなんて信じられないけどな。昨年のバイク(BMC)も速かっただろうが、そこまで(特別に)速かったわけではないだろう。(問題は今年の)バイクがそれほど遅いということだ。それが事実だとしたらバイクを代えたほうがいい。このレベル(ワールドツアーチーム)でだぞ。まるでF1に1972年製のシトロエンで出場するみたいなもんだ。

今回のデニスとバーレーン・メリダの関係については様々な憶測が飛んでいるが、CyclingNewsはチーム正式加入前の昨年12月からスポンサーであるマクラーレンの風洞実験場で複数回に渡ってTTバイクの調整をしていたと伝え、しかし一方でデニスが希望したハンドルバーの使用がサプライヤーの意向により叶わなかったとも書いている。

プロのあるべき姿

TTバイクへの不満が棄権に繋がったことが事実だという前提で、ランスは今回のデニスの判断に対し喝を入れた。

ランス:もし1分遅いバイクで悪い製品だとしても、プロのアスリートだ。多額の年俸をもらっているのだから、(もしこれが事実だとしたら)許しがたいことだ。ローハンに言いたいのは「お前はツール・ド・フランスに出場し、ツール・ド・フランスを走るために雇われ、翌日に専門のタイムトライアルがあるんだ。どんな理由があれど棄権していい理由はない。」ということだ。

ーーいまの時代は多くないというか、全くないのかもしれないけど、選手用に特注で作られスポンサーロゴを貼り付けたTTバイクってもうないの?

ランス:あったがだいぶ昔のことだな。いまはもうそんなことやっていないし、そんなことしたら「一人だけ違うバイクを使っている」って明らかだ。

ヒンカピー:でも君はそういう(TTバイクを)使ってたでしょ?

ランス:ああ、その通りだ。その頃のトレックのTTバイクはオンボロで「これじゃ勝てないな」って思ったから…