近代ツール史上最も厳しい第1週目を締めくくった第10ステージは217kmの平坦レース。名だたるスプリンターを抑え、絶好調ユンボ・ヴィスマのワウト・ファンアールト(ベルギー/24歳)が勝利を収めた。しかし話題の中心はそのフィニッシュ手前35km地点で起きた横風分断だった。
Their eyes are bigger than their stomach.(彼らの目は胃より大きい)
EFエデュケーション・ファーストがチーム全員を使い横風分断を狙うも、最強クラシック集団に牽引が代わると、そのEFがティボ・ピノーやリッチー・ポート、ヤコブ・フルサングらと一緒に後方に取り残されてしまった。
ランス・アームストロング:EFは先頭を引っ張っていたのに(メイン集団から)振り落とされたんだ。チーム全員がだぞ!もちろん総合順位争いの有力選手(ウラン)もだ!
ーーEFが引き終わった後、イネオスとクイックステップ(ドゥクーニンク)が(慣れている)「俺たちにやらせろ」と言わんばかりに先頭を代わったね。
ジョージ・ヒンカピー:EFが先頭を引き始めた時点で、すでにウランはレッドゾーン(限界)に入っているような、なんとかついていっているように見えた。その後イネオスとクイックステップ(ドゥクーニンク)が抜いていき、分断が起こった。彼(ウラン)にとって1分20秒を失う大失敗となったね。
このEFをランスは「Their eyes are bigger than their stomach.(彼らの目は胃より大きい=自分で食べられる量より多く注文してしまった)」と表現した。
EFの”監督”は横風職人
ヒンカピーは、今季ツールのハイライトに残るEFの大失敗に関連して、同チームの監督であり元チームメイトのアンドレアス・クリールのエピソードを語った。
ヒンカピー:彼は横風ではスペシャリストの一人であり、HTC時代のチームメイトでもあった。彼と風の強いクラシックを一緒に走っていて忘れられないのが、全てのコーナーをインチ単位で知り尽くしていたことだ。
ある年のツール・ド・フランドルで彼は「今日の100km地点の右では道路工事、左にはガソリンスタンドがある。もしそこで先頭にいなかった場合は、コーナーの200m手前で歩道に飛び乗れば50人は抜ける」と話していた。それぐらい彼はコースを知り尽くしていたんだ。
ランス:それ冗談だろ?
ヒンカピー:それを横で聞いていて僕は「15年間レースをしてきたけど選手がそこまでコースを熟知していたことなんかない」と思ったんだ。
ランス:そいつは今日(EFの)チームカーに乗っていたのか?
ヒンカピー:いた。だからさぞウンザリしてることだろうよ。
ランス:そもそもやつら(EF)はそういうことするチームじゃないだろ?プロトンにはクイックステップやイネオスとか本物の馬力のあるチームがいるんだから、そもそもあいつらの仕事じゃないだろ。
ヒンカピー:前にいたから挑戦してみたんじゃないかな。
お前は最高!
話す内容が薄いスプリントステージに多く読まれるリスナーからの質問コーナー。最も思い出に残っているファンについて聞かれたランスの回答。
ランス:そんなに昔じゃない話だが、たしか2004年のラルプ・デュエズでのタイムトライアルだったと思う。もちろん一人で走っていて、急勾配の坂で若い男が並走してきた。そいつは俺の顔のすぐ近くで「お前は最高だ!お前は最高だ!お前は最高だ!(You’re the fuckn men!)」と叫び続けて止めなかったんだ。
俺は「これは最高だが早くいなくならないかな」と思い、彼の方を向き目を見て一言「知ってる」と返した。その時の驚いた顔ったらなかったな。
そしてつい数年前、そいつが俺に話かけててきたんだ。「もちろん君は覚えていないかもしれないが、ラルプ・デュエズで君と並走したんだ」と言われたから「もしかして『お前は最高!』と叫んでいたやつか?」と聞いたら「覚えていたの?!」と驚いてやがった。