「塩を手渡ししてはいけない」ランス・アームストロングによる2018年ツール第21st評

 

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ランス・アームストロング:

今日で最後になるポッドキャスト「THE MOVE」へようこそ。

ーーまずは今日の第21ステージを振り返ろうか。

ランス:イヴ・ランパルト(27歳/クイックステップ)のことだろ?今日のシャンゼリゼ、ラスト1kmで急加速した。上空にいるヘリコプターからの映像だと、一人旅をしているように観えた。もしあのまま行っていたら、偉業に近いことになっただろうな。

ーーあのスピードを維持するとこが、どれだけ難しいかっていうのがわかるシーンだったよね、3週間走った脚で。でも一瞬「行ける。逃げ切れる」と思ったはずだよね?あの時彼の脳裏には何が浮かんだんだろうね。

ランス:スプリント勝負を狙う各チームのトレインの速度を考えると、一人では太刀打ちできない。とにかく速いんだ。特にラスト500mのスピードはな。

ーーでも、もし逃げれたら凄いことになっていたよね?

ランス:ああ。もちろんだ。

ーー君の時代と違うのが、それまでは凱旋門の手前にヘアピンカーブがあったのが、いまは凱旋門の周りを一周するようになった。つまり、集団の速度が落ちないから、より逃げ切りが難しくなったということ?

ランス:ああ。レース展開への影響もそうだが、フォトグラファーにとっては迷惑なのかもしれないな。ヘアピンならその周辺に座れば選手がゆっくり前を通り過ぎて、凱旋門と選手が一枚に入る写真が撮れるはずだった。だが、TV中継でのヘリ映像は美しかった。

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ランス:また、アレクサンドル・クリストフ(31歳/ノルウェー)にとっては、3週間のフラストレーションの末に掴み取った勝利だったな。確かにUAEというチームとしてはダン・マーティンでステージ勝利はしていたが、選手たちはストレスが溜まっていただろうからな。

そして、今日はいないが、昨日の放送でジョージ・ヒンカピーは勝利候補にクリストフを挙げていた。すげぇな。

ーーそしてアラフィリップ(26歳/フランス)が山岳賞に輝いたね。君が嫌いな山岳賞に。

ランス:俺はアラフィリップは好きだぞ?ヤツのスタイルや、個性も強いし。

ーー君の指摘は、山岳賞が一番登りが速い選手に渡らないということだったよね?

ランス:そうだ。最もアグレッシブだが、矛盾している選手。つまりレースの序盤から仕掛けるような選手が着るんだ。俺はゲラント・トーマスが総合争いをしていた選手の中では一番登れる選手だと思っているのだが、ヤツは山岳賞争いでも4位になっている。

何が気に食わないかって、総合勢が山岳賞に対して何の動きも見せていないことだ。当然だけどな。



ーーゲラント・トーマスの世界は180度変わったよね。

ランス:そうだな。

ーー彼は別に新しい選手というわけではないけど…

ランス:俺が走った2009年のツールにもいたしな。ゲラント・トーマスのこれまでのキャリアというのは、トラックとクラシックレース寄りで、その頃はいまよりも大きくて重かった。その後、経験を重ね、より軽くなり、強くなった。

ヤツがこの大会で一番の選手だったと、誰にも異論がないはずだ。実際、そうだった。

俺はウェールズに行ったこと無いが、ポディウムでウェールズの旗をマイヨジョーヌが隠れてしまうぐらいアピールした姿は、ウェールズに帰ってどんな祝福が待っているんだろうな。

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そして、ここ数年間ずっとイギリス人による優勝が続いている。ブラッドリー・ウィギンスに始まり、その後クリス・フルーム、そして今回のゲラント・トーマスだ。だが、ゲラント・トーマスがその中で唯一のイギリス生まれの選手なんだ。ウィギンスはベルギー生まれで、もちろんフルームがどこ出身かは、みんな知っているよな。

ーーゲラント・トーマスはナイト(サーの称号)を貰えるかな?

ランス:以前の放送で、ヨハン・ブリュイネール*ランスとヒンカピーが現役時代の監督が、ウィギンスとブライルスフォードに対しては、ツールだけではなくロンドン五輪での成功も含めたものだったという考えがあったよな。

そしてそれは(五輪で金メダルと獲得している)ゲラント・トーマスにも当てはまる。だから、そうなるかもな。

ていうか、サーになって何か良いことあるのか?

ーー…なんかあるんじゃない?

ランス:ウェールズ人なのに?もうゲラント・トーマスが王様だろ。キング・ゲラントだよ。もはや。

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ーーゲラント・トーマスは明日の朝起きて、具体的に何が変わるの?金銭的に、個人的に、スポンサーや、その他様々の機会について。

ランス:もちろんこの成功をマネタイズする潜在性は高いだろう。それに、マイヨジョーヌだけではなく、全てのジャージ獲得者はクリテリウムと呼ばれるエキシビションレースに参加して出走料をたんまり貰う。

ーーさぞ高いんだろうね?

ランス:そうだ。それもクリス・フルームがクリストフにスプリントで勝つようなレースだ。

その後、故郷ウェールズで凱旋パレードみたいのが行われるんじゃないか?それにふさわしい選手だ。とてもいいヤツだしな。一緒にレース出た時、誠実で、良いヤツだった。俺とは違ってな。これから色んな露出があるだろうし、ヤツだったらそれらを問題なくこなせるだろう。

それになんといっても注目なのが、2019年の契約だな。まだスカイと契約延長を正式に結んでいないらしいからな。

ーー例えばゴルフでは、アメリカオープンで優勝すると、2000万ドル(約22億円)の価値があると言われている。スポンサーなどでね。自転車選手はどうなの?

ランス:自転車選手は収入の大半をチームの年俸が占めている。年俸以上のお金を得ることは稀だ。だから、ゲラント・トーマスの年俸がハネ上がるだろうが、その額を支払えるチームがあるのか?という問題だ。

高額年俸の選手を複数抱えることができるのは、スカイぐらいしかいない。それは悲しいよな。同じチームの選手が敵同士になって戦う方が、絶対に面白い。ゲラント・トーマスに関して、いまのところ期待できなそうだけどな。

ーーなるほどね。

ランス:昨日、ジョージが教えてくれたのだが、ゲラント・トーマスは去年の冬をずっとカリフォルニアにマリブでずっとトレーニングをしていたらしい。そんなの誰も知らなかっただろ?ツールで総合優勝する選手が、遊びの宝庫であるマリブにいたなんてな。

ーーもうそんなことできないでしょ?

ランス:できるんじゃないか?そりゃ去年よりは有名になったのかもしれないが、まだ大丈夫だろ。



ーーあまりこの番組では話題にしないけど、ツールには賞金があるんだよね?

ランス:そうだ。そしてあまり話題にしない方が良いのかもしれないな。ツールの総合優勝者には、50万ドル(5,600万円)が贈られる。そしてそれは俺が1999年に優勝した時と同じ金額だ。

それについて(現役時代?)わめいてみたが、変わらなかった。ASOはツールの莫大な放映権を、選手やチームに分配しない。そして20年以上も優勝賞金が変わっていないんだぞ?

なんてクソなんだ。

ーーしかも全ては選手の手に入らないんでしょ?

ランス:そうだ。選手とスタッフに分配だ。

ーー正しくないよね?

ランス:ああ。色々と正しくない。

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ーー2018年のツールを総括してくれない?チームの人数が減って、総合順位を厳しくするために石畳や、65kmというショートステージも導入された。素晴らしいグリッドスタートもね。

ランス:そうだな。でもさらなる改善は必要だろう。さっき質問されたんだ。「25年後のツールはどうなってる?」ってな。素晴らしい質問だが、俺にはわからない。だが、何かしらは変わっていいるだろう。変更への挑戦は続くだろうな。

このツールのポイントとしては5つ挙げられる。

1つ目は、スカイとゲラント・トーマスの支配的な強さだろうな。本当に強かったし、スキがなかった。

2つ目は、ローソン・クラドック(26歳/アメリカ)だ。信じられない走りだった。肩甲骨を骨折したら、普通は棄権だ。ローソン以外でツールに出場した選手はみなそうしただろう。そしてハリケーンで崩壊したヒューストンのヴェロドロームの修繕費を募って、総定額の二倍を集めた(約2,700万円)。ただただ素晴らしい。超人的だ。

3つ目は、トム・デュムラン。ヤツは将来、絶対にツールを総合優勝するだろう。完璧に近い選手じゃないか?タイムトライアルも強いし、頭がよく、集団からも遅れない。ヤツはツールを勝つ。

ーーでもその為にはチーム力は必要でしょ?

ランス:最低でも一人は欲しいな。山岳で集団が絞られた特、デュムランは常に一人だった。アシストしてくれる選手が一人は欲しい。でもそれはそんなに難しくない。

ーーあのスカイに対抗できる選手なんてそう簡単に手に入れられないでしょ?

ランス:いや、今回のロットNLユンボを見てろよ。誰も期待していなかったチームから、総合勢に二人も残ってた。サンウェブはクライスヴァイク(31歳/オランダ)でも引っ張ってくればいいじゃないか?

4つ目は、石畳だ。あれは凄かった。総合勢のレースをぶっ壊しはしなかったが、凄かったな。予想よりは穏やかだったけどな。

5つ目は、スプリンター達の惨状だ。落車や時間制限で、いままで見たことないぐらいのトップスプリンターたちがツールを去っていった。

ーーこれによって、タイムカットでの失格基準を緩めたりするのかな?

ランス:しないだろうな。

ーーでも、スプリンターたちがいなくなるのは悲しかったよね?

ランス:悲しいとは言っていない。ショックだっただけだ。

ーーそのせいで今日のショー(第21ステージ)が盛り上がらなかったってことだね?

ランス:そうだ。

ーークリストフはその恩恵を受けたってこと?

ランス:まぁな。


番組スポンサーである缶コーヒーを手に持つランス

ーー最後にリスナーからに質問に答えてほしい。「ハイ!ランス!現役の時に一番おかしかったチームメイトの言動はなに?」だって。

ランス:俺のチームメイトはみんなおかしいヤツばかりだったからな。そうだ、スペインでは飯を食うテーブルで絶対に塩を手渡ししてはいけないんだ。「塩とって」と言われても、渡す人の前に置かなくてはいけない。

ーーなにそれ?

ランス:さぁな。

ーーそろそろまとめてよ。

ランス:わかった。

今日がツールのレビュー放送という意味では最後なのだが、三週間も聴いてくれて本当にありがとう。去年の放送のように「次は49週後」ということはないが、いまのところ予定は何も決まっていない。

出演してくれたゲストや、ホスト役を務めてくれたJBヘイガー、スタッフのみんなに感謝を言いたい。ありがとう。

また次のエピソードで会おう!

 

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