「登りの秘訣を教えてやろうか?」ランスが語るクライミング・テクニック

9月27日にイタリアのエミリア=ロマーニャで行われた2020年ロード世界選手権男子エリートロードレース。

2つの登り区間を含む27.8kmのコースを9周する総距離258.2km/獲得標高差5,000mという過酷なレイアウトで行われた。

このサバイバルレースを制したのは、最後の頂上直前で飛び出したジュリアン・アラフィリップ(フランス/28歳)。残り17kmを独走し、自身初となるアルカンシェルを手に入れた。

ランス・アームストロングによるポッドキャスト番組『THE MOVE(リンク)』にて、ランスと盟友ジョージ・ヒンカピーがレースについて語り合った。

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ツール組が有利だった

ツール最終ステージ直後の番組で「世界選手権を勝つのはツールを走った選手のうちの誰かだ」と予想し、それが見事に当たったジョージ・ヒンカピー。

自身もアシストとして何度もグランツールと世界選手権を走った経験から、グランツール直後の選手とそうではない選手たちの違いをこう語った。

ヒンカピー:

ツール・ド・フランスを走り終えた選手で、良い状態で世界選手権に来れた選手はいないだろう。だが彼らはツールを走っていない選手よりも一段階上のギヤを持っているんだ。

グランツールを終えるとレース開始時の脚の調子は良くないが、200kmを越える頃にはもう一段踏み込める力が残っているんだ。今日のレースでそれが見えた。(ツールを終えた)選手たちは、それ以外の選手たちを置き去りにしていた。

繰り返しになるが(ツール組は)最初は脚が重いのだが、レースが220〜230 kmを過ぎてみんなに疲れが現れてくる頃にはその違いが現れるんだ。

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登りは先頭で入れ

今大会はマッツォラーノ(2.8km/平均勾配5.9%/最大13%)とチーマ・ガッリステルナ(2.7km/平均勾配6.4%/最大14%)という2つの登りが選手の脚を削っていった。

ランスがこういった獲得標高差のある周回コースで脚を溜めるテクニックを披露した。

アームストロング:

ああいった周回コースには戦術があるんだ。

こういうレイアウトではともに走ったロルフ・ソレンセン(80年代後半〜90年代に活躍したデンマーク人ルーラー)を思い出す。彼は常に世界選手権で勝利を狙っていた。ロルフは5周目までの難しい登りを集団先頭で登り始めるんだ。そして少しずつ(集団内)の位置を落としていき、集団最後尾で登り終える。まだレースの残り距離があると分っているからな。

先頭で登りに入り、登りながら集団内の順位を落としていく。そうすることでおそらく40wぐらいパワーを節約しながら登ることができるんだ。

集団最後尾まで下がり、他の区間で先頭まで戻り、また同じことを登りで繰り返す。そして勝負どころで先頭付近にいるからバーン!と行けるわけだ。エネルギーの保存とでも言うのだろうか?周回コースはそういった戦略で走るんだ。でもラインレースだったら上手くいかないだろうけどな。

でも使い所にご注意あれ!

しかし、このテクニックに関して盟友ヒンカピーは「注意が必要だ」と付け加えた。

ヒンカピー:

ロルフはその方法で1997年ロンド・ファン・フラーンデレンを優勝したが、同時に「リスクもはらんでいる方法」だということも言っておきたい。

今日のエミリアのコースは風が強く、コーナーも多く、落車もあった。そのテクニックを使うには全てが完璧に進まないと難しいだろうね。リスクと危険が増してしまう走り方だ。

独走を許したのはファンアールトのせい

飛び出したアラフィリップの独走に待ったをかける追走集団には、フルサンやログリッチ、クフィアトコフスキといった強力な選手たちがいた。それにも関わらずアラフィリップに17kmの単独走を許してしまった原因について、ランスはこう分析した。

アームストロング:

あの中にワウト・ファンアールトがいなければ追走集団はアラフィリップに追いついていただろうな。確実にそうなっただろう。

みんな顔を見合わせて「俺たちはみんなガリガリ(クライマー)だから(ファンアールトに)スプリントで勝つのは無理だな」って思ったのだろう。

集団にワウト・ファンアールトがいたらクレイジーな展開過ぎて「どうせお前がスプリントで勝つんだろ?」って思うに決まってる。だからみんな「お前(ファンアールト)が追えよ。お前が集団をスプリントの展開まで持っていけ」って思っていただろう。ヤツらはそうするべきだった。

一方ファンアールトは6人の為にフィニッシュラインまで先頭を引いたりするわけない。力を使い果たして最後のスプリントを痩せっぽちなクライマーに負けるなんて絶対に嫌だからな。そういう選手同士の力学はレースでは日常茶飯事だ。

ちなみに…

ちなみにアラフィリップは15%の登りをアウターで駆け上がり独走リードを作った。