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悲劇?もしランス・アームストロングがUCI会長になったら

世界三大スポーツの一つ…なわけがなく、世界で35億人が観ている…はずもなく、1500万人と言われる沿道観客…はみなフルームとゲラント・トーマスの顔の違いさえもわからない、ツール・ド・フランス

そんな名前と伝統だけで人気もお金もない、全世界的にマイナープロスポーツ*である自転車ロードレースを盛り上げるには、あの幻のツール7連覇者ランス・アームストロングの力をいま一度、借りるしかない。
*コロンビアとイギリスは除く

というわけで、ランス・アームストロングによる自転車ロードレース改革案を語ってもらいました。

*ランスの改革案はすべて本人が語っているものですが、インタビューそのものは創作です。

都会で周回コースを増やして金を稼げ!

ーー本日はよろしくお願いします。今年末でチームスカイのスポンサーが撤退し、昨年はクイックステップ83勝したのにも関わらずスポンサー探しに苦労し、一昨年はキャノンデールがたった7億円のためにクラウドファンディングをするというトップチームとしてはあるまじき事態に陥りました。あなたが現役だった頃とは比べ、あまりにも落ちぶれてしまったこのスポーツの現状をどうお思いでしょうか?

ランス・アームストロング:そうだな、その通りだと思うよ。しかし、まだたくさんの改革が可能だ。これらを実行すれば、プロサイリングはより面白く、よりエクサイティングに、そしてより親しみやすくなると思っている。しかもその改善点は単純で、あまり多くの議論を呼ばないものだ。

ーー具体的にいくつか挙げてもらえますか?

ランス:まずは、レースの”スケジュール”と”フォーマット”の抜本的な改革が必要だ。例えば短い距離のステージや、グランツールの退屈なステージを減らすことだ。また、都市部で周回コースのレースを増やす。

なぜなら130マイル(210km)の平坦コースでは観客はたった15秒しか選手を観られないが、短い周回レースであれば逃げと追う集団を6〜8回は観られる

そうすれば客をスタンドやVIPの観覧席に招いて入場料が取れる。このスポーツに欠けていた入場料がな。

ーーレース主催者の努力が足りないと?

ランス:まぁそうも言えるが、新しい改革として一つ注目しているのが、今年のツールで行われる65kmステージだ*。将来のトレンドになりうる流れとして、もしかしたら形勢を一変させるステージになるかもしれない。ターニングポイントになるかもしれない。
*インタビューは2018年ツール以前に行われました。

レース時間をコンパクトにして質を上げろ!

ランス:レース主催者はどうやってレースに興奮をもたらせるかを真剣に考えなきゃいけない。どうすればレースをより長くできるかではなくだ。

より熱狂するレースを作れれば、成功する。たとえいまより(総走行距離が)1,000km短くなったとしてもな。

過去にASOはテレビの放映時間をできる限り長くしてよりお金を得ようとしたのかもしれないが、最近はデータが視聴形態の変化を表している。主催者はより刺激の強い(興奮する)レースにすることに注力しなければならない。上げるのは量じゃない、質なんだ

ーー日本でもJSPORTSが、2017年のツールをスタートからフィニッシュまで完全中継しましたが、翌年には何事もなかったように通常放送に戻っていました。DAZNの参入で焦ったからなのか、理由はわかりませんが、平日に6時間中継しても視聴者は限られていますし、実際に数字も変わらなかったのでしょうね。もしかしたら悪くなっていなのかも。

ランス:特に日本人は忙しいんだろう?

ーー労働時間が長いですね。残業は普通ですし、いまだに週休二日制に異を唱える経営者がいますからね。

ランス:クレイジーだな。

ーーただの老害です。

ランス:そんなワーカホリックな日本人にとっても、もしレースがより短く、より面白くなれば、宣伝も簡単になるだろう。

ーーなるほど。

城の説明とかさせてんじゃねーよ!

ランス:俺はフィルス・リジェット(実況者)パウルス・シェルウィン(解説者)に同情するよ。5時間も長く平坦なステージで何も起こらないのに、何を話せばいいんだ?

だから彼らは仕方なく13世紀に建てられた城や教会、トラクターで作られたアートや、自転車で綱渡りするファンについて話すんだ。それ以外なにを話せばいい?

ーー日本にもいますね。城や歴史的建造物に詳しい実況者が。私は好きですけど、たしかに賛否はあります。

ランス:そうか。同じように苦労しているんだな、彼も。

繰り返しになるが、だからより短く迫力のあるステージが波及し広まらなければならないんだ。走行距離やテレビの放映時間を犠牲にしてもな。

ーーお考えはわかりましたが、そうは言っても2020年のツールから総走行距離を2,500kmにするなんてことは不可能だと思いますし、相変わらず退屈な平坦ステージは続いていくと思います。あなたなら中継を面白くするために、どういった施策を取りますか?

ランス:アイアンマンレースの中継から学べることが多いだろう。

ーートライアスロンよりも距離の長い、あの競技ですか?

ランス:そうだ。アイアンマンもテレビ中継もかなり退屈なスポーツだ。だから選手に着目したヒューマン・ドラマを紹介しているんだ。

ーー増田明美!

ランス:誰だそれ?

ーーいや、日本の女子マラソンの解説者に、選手の親御さんやときには中高の時の顧問にまで取材し、詳細すぎる情報を語る名物解説者がいましてね…

ランス:選手の詳細なストーリーを4、5つ紹介するんだ。どうして自転車ロードレースでそれをしないんだ。できない理由なんて一つもない。

ニュースで流れる2分程度の簡易的なものではなく、その人物や(通過する)村についての本気の紹介だ。人間の興味をそそる物語は、たとえ160km平坦ステージの真っただ中であろうと、視聴者の心を掴む

ーーなるほど(…日本の駅伝みたいだ)。たしかに現在のレース中継は、選手の戦績には注目しても、その選手がどういった背景で育ったのかまで語る実況者や解説者がいない気がします。それは、英語でも同じなのですね。

メディアの動向をつかめ!

ランス:また、世界中のメディアとメディア消費傾向が変化しているのかを、観察しなければいけない。いまはすべてが、動画とソーシャルメディアに向かっている。人々はより短く、より面白いもの(ニュースやスポーツ)をつまみ食いしながら消費している。それも”好きなときに”がトレンドだ。

自転車レースも短いコンテンツに向かっていく必要がある。5〜6分の動画で、山頂や、レースを決める戦略的決断、例えば最終スプリントや逃げ、最終山岳や落車などを紹介する動画だ。

ーー日本でもJSPORTSやDAZNでもハイライトは放送されていますが、中継の延長線上といった感じで、それ自体をコンテンツとしてアピールするクオリティにはないですね。

ランス:それにモバイルフレンドリー(スマホやタブレットでの閲覧しやすく)にするべきだ。iPhoneで楽しめなければ、それだけ潜在的なファンを失っているに等しい。

レビューコンテンツが不足してる!増やせ!

ーー中継以外のコンテンツで言えば、あなたがホストしているポッドキャストなどがあります。自転車ロードレースにおける新しいメディアの可能性について、どのように考えていますか?

ランス:レースの要点をまとめたり、解説したり、意見を言ったりする動画かポッドキャストが必要だと思っている。俺たちが去年から始めたやっている『Stages』ポッドキャストのようにな。

大体30分ほどでステージの出来事について意見や語りをしている。何人ものリスナーから「その日レースがみれなくても、俺のポッドキャストを聴いて何があったのかを知る」という意見を聞くよ。ときにはテレビ中継よりもこっちを選ぶなんて人もいる。このような番組(コンテンツ)を、レース動画と組み合わせれば多くの視聴者を惹きつけられる。たとえそれが生中継でなくてもな。

ーー昨年から日本ではJSPORTSが『月チャリ』という週一回のレビュー番組を始めたのですが、オンデマンド限定のコンテンツかつ、内容も『Stages』のような考察や私見を議論するというよりも、新しい情報量も乏しいただレースを振り返るという、質としては決して高くないものになっています。今年も継続して行うのか不明ですし。番組が始まる前は、ゴールスプリントの徹底解説や、現地取材などから得た情報を踏まえた分析などを…期待していたのですけどね。

ランス:何であっても、やらないよりやるほうがマシだ。今年良くなる可能性もあるだろう?また、レース中継そのものにも改善できる点はたくさんある。例えば…

ーーすみまんせん。長くなってしまったので今回はそのぐらいにして、次回この続きをお願いします。

ランス:ああ。また次回!!

Source: VeloNews