アルプス三連戦の二日目となった第19ステージは、超級山岳イズラン(コル・ドゥ・リズラーン)を越えたところでフィニッシュの悪天候のため急遽コースを短縮。トップ通過したチーム・イネオスのエガン・ベルナル(コロンビア/22歳)が自身初となるツール初勝利を上げた。
ピノのリタイアは同情に足らず?
今大会で最も標高が高いイズラン峠の登りに入ったメイン集団はドゥクーニンク・クイックステップとチームイネオスがコントロール。しかし第17ステージの落車で左脚を痛めていたFDJのティボー・ピノ(フランス/29歳)が遅れ、一度はメディカルカーで治療を受けたものの、そのままチームメイトのウィリアム・ボネに見送られる形でリタイアとなった。
ジョージ・ヒンカピー:本大会の優勝候補であるピノが…このレース序盤で見せたドラマに心が痛むよ。君は僕と違った意見を持っているみたいだけどね。
ランス・アームストロング:心を痛めただと?
ヒンカピー:ツールを棄権しなければならなかったんだよ?(このままいけば)間違いなく総合上位に入れた。
ランス:おい、脚にハンドルバーをぶつけたんだぞ?そんなのはツールを棄権していい理由にはならない。
ヒンカピー:君はどれだけの怪我か知らないだろ?
突然のニュートラル
イネオスの最終アシストのワウト・プールス(オランダ/31歳)がメイン集団を引き終わるとゲラント・トーマスがアタック。それにマイヨ・ジョーヌのアラフィリップが遅れてしまう。その後ユンボ・ヴィスマのローレンス・デプルス(ベルギー/23歳)の引きによってトーマスが引き戻されると、今度はベルナルが切れ味鋭く飛び出した。そして頂上までに逃げていたサイモン・イェーツやニバリの有力勢に追いつくと、皆ベルナルのスピードに行けずそのまま最標高イズラン峠を制した。
ヒンカピー:今回の事態はショックだったし、いまだ僕たちも情報を集めているところだ。
ーーオフィシャルサイトはいまだステージ順位や総合順位に関しての情報が載っていない。
ヒンカピー:何が起こったかというと、ポディウム候補のピノが棄権した後、レースがキャンセルになった。そしてコル・ドゥ・リズラーンがフィニッシュ地点となった。その後、あられや雨が降ってきて…
ーー選手たちにではなかった(フィニッシュ付近の悪天候)ね。
ランス:そうだ。フィニッシュ地点のことだ。そして土砂崩れが起きて…そんな感じだ。オフィシャルがレースをキャンセルさせた。
プルードム以外は信じるな!
ランス:俺がレースと自転車選手の好きなところは、レースの中止がチームカーでも、オフィシャルが近寄って伝えても、止まらなかったことだ。選手たちは(中止を)信じなかったし、信じたくなかった。騙されないように、バカをみないように、レースを続けた。それは正しい選択だ。
ヒンカピー:以前にも同じことがあったからね。だからウランとニバリは言い争っていた。キンタナが総合優勝した4、5年前のジロ山頂付近でニュートラルになって、ウランが止まってジャケットを着てゆっくりと下りを降ろうとしていたんだが、キンタナとニバリはそのまま進んでいった。スピードを落とすことなくね。そしてなんとそのせいでウランはジロで負けてしまったんだ。ニュートラルだと思ったのに貴重なタイムを失ったんだ。
だからウランはきっと「おい、昔お前に無茶苦茶にされたから、誰かが俺を自転車から引きずり降ろすまで止まらないぞ!」ってニバリに言ったんだろうね。
ーーもちろんベルナルはその出来事を覚えていないでしょ?
ヒンカピー:もちろんだ。
ランス:情報をもらったサイモン・イェーツがベルナルに(中止を)伝えていたが、ヤツは止まらなかった。でもそれでいい。そうするべきだ。レースカーからクリスチャン・プルードムが「このレースは終わりだ」と伝えるまではな。
ーーレースモトからの言葉では十分じゃなかったと。
ランス:そうだ。そして現時点で分かっていることは天候が急変して…(フィニッシュ付近の)映像を観たが、あの土砂崩れ、地割れか?あれでレースはできないから正しい判断だった。
だが、もしレースが続いていたら何が起こっただろうか?
フランスのファンは「アラフィリップには災難だ。下りで追いつけたのに!」とか言うかもしれないが、(レースが続いていれば)5分は失っていただろう。
既に2分失っていて、それ以上のタイムを失っていたはずだ。
ヒンカピー:一人きりだったしね。ゲラント・トーマスの集団に追いつくのは可能だったかもしれないが…何が起こるかの予想なんて無理だよね。
ランス:フィニッシュ後の(アラフィリップの)コメントは上品だった。「マイヨ・ジョーヌをこれだけ長い間着用できて喜ばしい。失ったのは悲しいが幸せだ」と。
ここからランス・アームストロング(47歳)と、ジョージ・ヒンカピー(46歳)による白熱議論が始まる
ランス:エガン・ベルナルが先頭で、サイモン・イェーツが一緒にいて…何が起きたと思う?(ベルナルはサイモンに)捉まっただろうか?さらにタイム差をつけただろうか?レースが最後まで行われていたら、全然違う状況になっていただろうな。
ヒンカピー:君は同意しないと思うが、今日のMVPはサイモン・イェーツだ。クレイジーで過激な総合順位争いの話をしているけど、サイモン・イェーツは恐らく3勝目を上げていただろう。
ーーランス、この意見に同意する?
ランス:俺の、俺の意見はなぁ…
ヒンカピー:ベルナルに(下りで)追いついて、長い谷の下りで彼の手伝いをする必要なんてなかった。ベルナルの後ろについて、ちょっとだけ手伝って、そうすれば勝利したのは彼だろう。
ランス:ジョージ、ジョージ、ちょっと待て。俺はヤツ(サイモン)のことは好きだし、今大会は2勝しているし、全てのグランツールで勝っているかもしれないが、お前は間違っている。
だってエガン・ベルナルは、最後の登りで限界まで踏まなければならないんだぞ?
ヒンカピー:でも谷の下りでも全力を出さなければならなかった。一方でサイモンはタイム差ではなく最後の山頂フィニッシュことだけを考えればいいから、リラックスして走れた。きっとあのまま行けば、サイモンが勝っていただろう。保証する!
ランス:保証だって?気が狂ったか?
ヒンカピー:100%だ。彼が勝ってた。
ランス:お前は頭がおかしい。俺の命をかけても世界で一番のクライマーは絶対に…
ヒンカピー:(ベルナルは)サイモン・イェーツを掴まえるまでにとてつもない力を既に使っていたんだ。
ランス:ヤツ(サイモン)は(ベルナルに登りで)振り落とされていただろう。
ヒンカピー:じゃあホワイティ(ミッチェルトンのホワイト監督)に電話して聞いて見よう!きっと僕の意見に賛成するはずだ!
ーーベルナルはサイモンに「ステージ勝利はあげるから協力して」と言えば良かったんじゃない?
ランス:そんなこと言ってる暇なんかない。最終山岳で限界まで踏まなければならなかったんだ。
ヒンカピー:後ろではアラフィリップがゲラント・トーマスの集団に追いついて、ユンボ・ヴィスマの二人と協力してたかもしれない。そこにリッチー・ポートも追いついて協力していたかもしれない。何が起こるか分からなかったんだ。そもそも君はなんでサイモン・イェーツが勝てないと思っているんだ?
ランス:お前、本気か?
ヒンカピー:当たり前じゃないか。君が朝食の卵を焼いている時に、僕はどれだけの人に電話して情報を集めていたと思っているんだよ!
ランス:(サイモン・イェーツを)買いかぶり過ぎだ。
現在のコロンビアはきっとこんな感じ
その後仲直りした40代のおっさん二人が、「歓喜する現在のコロンビアの様子」を忠実に再現してみた様子↓
We may never know what might have happened today, but that didn’t stop @ghincapie & @lancearmstrong from disagreeing about it. Now the youngest rider left in @LeTour has a chance to win…will Geraint Thomas go to work for Bernal? #THEMOVE Stage 19 is up: https://t.co/gfzXp7S4kS pic.twitter.com/KG36C2DtnU
— WEDŪ (@wedusport) July 27, 2019
考えただけ恐ろしい来年イネオス@ツール
モビスターのGMは今季ジロ・デ・イタリアを総合優勝したリチャル・カラパス(エクアドル/26歳)の退団を認め、これで事実上チームイネオスに移籍することが決定的となった。
ヒンカピー:来年のツール・ド・フランスのことを話してみると、フルームが戻ってきて…
ーーデュムランも戻ってきて…
ヒンカピー:そこにカラパスも加わって。ちょっと考えても見てよ。カラパス、ベルナル、ゲラント・トーマスにフルームが同じチームにいるんだよ?全員ツールに出場はできないかもしれないが、全員がグランツールの優勝者だ。何が起こるかわからない。
ランス:ベルナルが勝てば、来年のツールには戻ってくるだろうし、もちろんフルームは戻ってくるだろうし…
ヒンカピー:ゲラント・トーマスもだよね。
ランス:そうなるとカラパスはジロとブエルタかもな。
ヒンカピー:ゲラント・トーマスとフルームとベルナルだけでも…
ランス:まだ(今年のツールは)終わっていないぞ!
ヒンカピー:そうだね。まだだね。
一番の犠牲者はゲラント・トーマス
第19ステージ終了時点で総合首位はエガン・ベルナル。そして2位は48秒遅れでジュリアン・アラフィリップ、ゲラント・トーマスが1分16秒遅れの3位につけた。そしてジョージ・ヒンカピーは、以外にもレース中断による一番悪影響を受けたのはゲラント・トーマスだと分析した。
ヒンカピー:あの中で最も(タイムを)失うことになったのはゲラント・トーマスだろう。彼は二位集団にいて、ユンボ・ヴィスマの後ろで何もしなくてよかったんだ。あの谷の下りの間ずっとね。僕たちはこの谷の下りを無視していると思うんだ。ここで力を貯めて、最後7kmを全力で登る。だからこのレース中断という決断で一番タイムを失った(取り返せなかった)のは、ゲラント・トーマスだと思う。