ユーロスポーツで2019年ジロ・デ・イタリアの解説を担当した2012年ツール王者のブラッドリー・ウィギンス。
レース後の特別番組にて、今大会総合優勝したリチャル・カラパス(モビスター)と第2位のヴィンチェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)という二人のTTを比較し、タイムトライアルにおけるマージナルゲイン(1%の積み重ね)について解説した。
“It’s all about the marginal gains” @SirWiggo explains the difference between winning and losing a time trial ⏱ pic.twitter.com/kDTKAwF84s
— Eurosport UK (@Eurosport_UK) 2019年6月2日
カラパスの配給ジャージ
「このダブついたスキンスーツを見てくれ。これはカラパスの身体に合わせて作られたスーツには見えない。チームスポンサーが一般的なサイズで作ったジャージだ。恐らくSMサイズのものを、袋から出して着ただけだろう」
ウィギンスが指差す先には、ジロ第1ステージでスタートの時を待つリチャル・カラパスの姿が映し出されている。
「それに見てくれ。ジッパーが中途半端で、ちゃんと上まで締められていない。それにチェーン(ネックレス)を首に巻いている。こんなの必要ないのにな」
ちなみにカラパスは最終第21ステージでもチェーンネックレスを着用していた。
「(ジャージに)こんな小さな波が立っていては滑らかな表面にならない」「これら全てが彼を後ろに引っ張る(空気抵抗を受ける)」
もちろん第1ステージの時点でモビスターのエースはランダであって、昨季ジロで総合4位だったとはいえ、一週間のステージレースすら勝ったことないカラパスに対し、オーダーメイドのスキンスーツが用意できるほどモビスターの資金は潤沢でない。
モビスターのマージナル・ロス
「スキンスーツは第二の肌にならなければいけない。だがチェーンが邪魔している。ここは全て風を受けるところだぞ?」
「例えばヘルメットメーカーは、完璧なフォルムで可能な限りスムーズな空気の流れを作ろうとしているのに…」
ウィギンスが動画で指摘しているのは第1ステージで、更にこの写真とは逆側。
「このストラップの余計な部分は、切るかテープで巻きつけるべきだ。それにチェーンを外し、もっと小さなサイズのスキンスーツを選ぶべきだ。LならSを、無理ならMを。とにかくよりタイトなものを着るべきだ」*最終日のTTではスキンスーツとストラップに遊びがなくなっているように見える。
この不徹底はチーム(モビスター)の責任であり、同時それに対してこだわりを見せない選手の責任でもあるとウィギンスは指摘する。
「驚くことに、このチーム(モビスター)では他の選手たちでも同様の傾向(詰めが甘い)が見られる。チームが選手の期待に背くような物しか用意しないことは、他のチームでも起きていることだ」
「それにプロの自転車界で顕著なのが、選手がチームから与えられたものを何も考えずそのまま使うことだ。そして、その状態のまま一番になることを何も考えずに期待する」
弱点を強みにしたニバリ
カラパスと対比される好例として、ニバリの写真が映し出された。
「ニバリはTTでこういった細かい改善をしなければならない選手だ。ヴィンチェンツォは総合順位をもう10年近く争っている選手だ。10年前、タイムトライアルは彼の弱点だった。それが原因でグランツールを負けていた。だからこそ彼はTTの改善に時間を注ぎ込まなければならなかったし、チームも協力した」
「カラパスとの違いを見てくれ。襟元は違うし、ジッパーがない。後ろにあるんだ。素材のスムーズさを見てくれ。第二の肌を再現している。もちろんアクセサリーなんてしていないし、ストラップも丁寧。完璧だ」
ジロ第1ステージでニバリはトップと23秒遅れの3位。一方カラパスは47秒遅れの14位と、タイムを失った。
ウィギンス命名「カマキリ・ポジション」
「これは風洞実験で作ったフォームだ。特に手のポジションは僕が呼んでいるカマキリ・ポジション(Praying-mantis position)になっている」
一枚目は2019年、二枚目は2017年のティレーノ~アドリアティコ。手の角度に注目↑
「手を縦にするよりも、甲を上向きにした方が空気が綺麗に流れるんだ。ヘルメットの位置も含め、全てが自然(オーガニック)なフォルムをしている。時間をかけて作られたフォームだ」
その後、2017年までチームスカイの総合エースとして走っていたミケル・ランダ(モビスター)と、第1ステージを勝利したプリモシュ・ログリッチェ(ユンボ・ヴィスマ)の比較に話題は移った。
TTでのダンシングは非効率
映像ではニバリと同様、ランダもカマキリ・ポジションを取っている。しかしニバリとの差は、登りでダンシングを多用し過ぎたことにあるとウィギンスは指摘する。
「俺が現役の頃、登りはできる限りサドルに座って登っていた。なぜならTTバイクでサドルから腰を浮かすことは効率が悪いからだ」
「TTバイクはサドルに腰をつけるように設計されている。ダンシングは効率的ではない」
「ダンシングよりもシッティングは姿勢が低く、骨盤の角度も違う。TTバイクを使うなら、設計された姿勢で乗らないといけない」
このステージを勝利したログリッチェは、ダンシングをほとんど行わず、ほとんどをシッティングで登っていた。
「440Wか数字は選手によるが、その選手の閾値(シッティングで登れる限界値)で登るべきだ」
「TTバイクでダンシングすれば閾値を越えたパワーで漕げるが、効率が悪い。腕にも負担がかかる」
「それに速度の面では上りでも空気抵抗は大事だ。TTではそういった小さいな要素が関わってくる。風洞実験で作ったポジションも、ダンシングしてしまえば全てが変わってきてしまう」
「(第1ステージの登りでは)ログリッチェだけが、ここをTTポジションのまま登っていた」
・ウィギンスのより詳細なジロの解説はここ↓で聴ける。
The Bradley Wiggins Show by Eurosport