今年ツール・ド・フランス5勝目を狙うクリス・フルーム(33歳/イギリス)が、元F1ドライバーで2016年ワールドチャンピオンであるニコ・ロズベルグのポッドキャスト番組に出演し、2012年ツールでのブラッドリー・ウィギンスとの関係について語った。
2012年ツール・ド・フランスで、チームスカイのエースはブラッドリー・ウィギンス、クリス・フルームの役割は山岳での最終アシストだった。
その昨年のブエルタでは、ウィギンスが総合三位、フルームは二位と自らの実力に自信を深めたのだったが、チームはあくまでもエースをウィギンスに据えた。
そのため開幕前からチーム内に不穏な雰囲気が立ち込めていたが、ツール第7ステージでフルームがツール初勝利を上げたことで、チーム一丸となってウィギンスの総合優勝を目指す体制が整った…ように思われていた。
フルームは第11ステージの残り4kmで、ウィギンスの前を牽いていたが突然のアタック。それにウィギンスが喚き、チーム全体が困惑した。結果的にショーン・イェーツ監督によってなだめれたフルームが、ウィギンスの元に戻り事なきを得たが、この謀反アタックはフルームを語る上では欠かせないエピソードとなった。
私欲と犠牲
ニコ・ロズベルグ 最大の目標であるツール・ド・フランス総合優勝の可能性が出てきた時、チームでのナンバー1はブラッドリー・ウィギンスで、君はナンバー2だった。しかし、実際には君のほうが優れていた。
その状況をチームはどうマネジメントしていたの?君はあの時何を思っていたの?
命令に従順に従うのか、あるいは「俺が一番強いのだから」と無視しようという気持ちがあったの?
クリス・フルーム 「指示なんか無視して行ってやる」と思った瞬間が何回かあったよ。でもチームカーに乗る監督から「チームオーダーを守るように」と強く言われていたんだ。エースの元に戻るようにとね。
ロズベルグ でも、無線のラインを引っこ抜く(無視する)こともできたでしょ?
フルーム ああ。たしかに、確かにそうだ。でも、あの時難しかったのは、信頼だ。彼(ウィギンス)をエースとして信頼することが、僕には難しかった。
エースへの疑念
フルーム その半年前にブエルタ・ア・エスパーニャがあったんだ。
僕は彼のアシストとして一緒に出場したのだが、残り数日になって彼は酷い状態になってしまったんだ。そうなったチームは、僕の方を向いて「今日から君がエースだ。総合優勝を目指してくれ」と言ってきたんだ。
そこから全力を尽くしたが、一位と13秒遅れの総合二位だった。エースを任された時点で優勝を目指すには、もう手遅れだったんだよ。
だから、あのツール・ド・フランスでは頭の中で常に「いま僕はこの人のために仕事をしているが、最後の何日かで同じ状態になった時のために、僕はすぐに総合優勝を狙える順位にいなければならない。何が起こるかわからないから」と思いながら走っていたんだ。
彼(ウィギンス)はそれまで一度もツールを勝ったことがなかったからね。まぁ、それは僕も同じだったのだけど。
チームオーダーを厳守しなければならないのは明らかだったし、実際その通りにした。チームが望む仕事はしたし、結果的に最終日のパリに一位と二位で行くことができた。彼が勝ち、僕は二位だった。
そして翌年の2013年に、100%自分のために走れるチャンスがやってきた。
ロズベルグ でも大変だよね、(自転車レースは)長丁場だし。
フルーム そうだね。でもあの時はまだ若かったから、まだツールに出場できる機会が何度もあると思っていたんだ。でも彼は、あの時がキャリアのピークだったと思うんだ。
だから、2012年は、彼の年だったんだ。
エゴとチームオーダー
フルーム チームに所属する限り、自己犠牲は必要だ。だから(2012年ツールを)全然後悔していないし…、君もルイス・ハミルトンと一緒のチームにいて、同じような状況だったんでしょ?どうだった?
ロズベルグ 君と同じさ。チームのサポートがなければ、僕一人では何も成し遂げられない。早い段階でチームに歯向かえば、サポートが必要な時に何も手助けも得られないからね。
(F1ファンにとっては有名な2016年モナコGPで、総合首位を走っていたニコ・ロズベルグが、同チームのルイス・ハミルトンに順位を譲った事件を説明した)
フルーム もしその時チームオーダーに従わなかったら、状況がかなり悪くなっていたと思う?チームとの関係性はどうだったの?
ロズベルグ 上層部との関係は悪くなっただろうね。でも僕はワールドチャンピオンを争っていたから、現場の人間はみな理解してくれただろうけどね。
フルーム それは僕も同じだろう。もしチームオーダーを守っていなかったら、たぶん違うチームとの契約を探さなければならなかっただろうね。
ロズベルグ 僕の場合はチームオーダーを破ったときの賠償金が、沢山のマルとともに契約書に書かれていたんだけど…それについて詳しく話すのは止めておこう。
Source: Nico Rosberg Youtube channel, CyclingNews