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ログリッチェがジロで孤立無援なワケ

「チームとスタッフに感謝したい」

これはエースがレースで勝利したときに語る常套句なのだが、もしログリッチェがこのジロで総合優勝した時、同じように感謝の意を述べるのだろうか。いや絶対言うだろうが、果たしてそこに心はあるだろうか。

そう疑いたくなるぐらい、現在総合3位につけるログリッチェは孤独な戦いを強いられている。

もちろんユンボ・ヴィスマの選手が何もしていないわけではない。ログリッチェがマリアローザを着用していた第5ステージまでチームは先頭を牽き、リーダーでなくなった後も平地ではエースのために補給を運び、用を足すときはチームメイトが彼の背中を押していた。

しかし、一回目の休息日明けの第14ステージの山岳というログリッチェが最もサポートを必要とした時に、仲間の姿はなかった。

丸裸がデフォルトなログリッチェ

第14ステージは131kmというショートコースにも関わらず、カテゴリのついた山岳を5つも越えなければならない厳しいステージだった。

二つ目の1級山岳(サンカルロ峠)でニバリ率いるバーレーン・メリダがペースを上げると、頂上を越える頃にユンボ・ヴィスマのアシストは一人もいなくなってしまった。

モビスターのカラパスがステージを勝利してマリアローザが移ったものの、ログリッチェが他のライバルからタイムを失うことはなかった。

しかし、レースが最も激化する30kmあまりの距離を、チームから守られて走るのと、単独でライバルのアタックに備え続けるのは使う体力に大きな差だ。

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そして翌日の第15ステージは、この孤立状態がタイムに影響する展開になってしまった。

2級山岳コルマ・ディ・ソルマーノで集団のスピードが上がると、前日同様ログリッチェは単独での戦いを強いられる。

その後、頂上付近でチームカーから最終補給を受け取ったログリッチェは、直後にメカトラブルにあい、結果的にサドル高が4mm低いトルークのバイクで再スタートしたが、下りで落車。ニバリたちから40秒を失ってしまった。

不運なメカトラに起因する落車だが、トルークがそばを走っていたらニバリたちとのタイム差はここまで広がらなかっただろう。

しかし、責められるべきは、力のないアシストたちではない。

若手で固められたアシスト陣

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今回のジロで山岳アシストを任された選手たちを見てみると、決して実力がないわけではない。

今季好調のローレンス・デプルス(23歳/ベルギー)やジャパンカップでも活躍したアントワン・トールク(25歳/オランダ)クーン・ボウマン(25歳/オランダ)などだ。

だが力のある選手たちとはいえ、みな25歳以下という若手なのだ。

連日イェーツのそばで働く若手のルーカス・ハミルトン(23歳/オーストラリア)など例外もいるが、経験の浅い選手はエースを食う勢いを見せたと思いきや、その翌日には山岳の麓付近で早々に顔がゆがむなど、調子が読めないこととイコールでもある。*実際デプルスは調整不良で第7ステージでレースを去っている。

つまり優勝候補筆頭と目されていたログリッチェに対して、戦力が計算できない若手クライマーばかりをつれてきたユンボ・ヴィスマに、エース孤立の責任はあるのだ。

第15ステージでチームカーに乗ったスタッフがトイレ休憩行ったことでログリッチェのメカトラに対応できなかった失態があったが、十分なアシスト選手を連れてこなかった選択の方が疑問符が浮かぶ。

ジロのスロベニアより、オランダのツール

なぜジロのユンボ・ヴィスマは手薄なのだろうか。理由は明白だ。それはジロよりも、ツールに注力しているからだ。

以下は、いま現在予想されているツールのメンバーである。

ステフェン・クライスヴァイク(総合エース)
ジョージ・ベネット(山岳アシスト)
ロベルト・ヘーシンク(山岳アシスト)
プリモシュ・ログリッチェ(山岳アシスト)
トニー・マルティン(TT)
ディラン・フルーネウェーヘン(スプリント)
ミケ・テウニッセン(平地/リードアウト)
アムントグレンダール・ヤンセン(平地/リードアウト)

ツールのラルプ・デュエズには「ダッチ(オランダ)コーナー」と呼ばれるほどオランダ人が集まるほど、注目度は高いのだ。

つまりオランダ籍のユンボ・ヴィスマにとって、スロベニア人エースで戦うジロよりも、オランダ人エース戦うツールの方が優先順位が高い。

チームはクライスヴァイクのために戦力を固め、その煽りをジロのログリッチェが一人で受けている。

最終山岳アシストを目されていたデプルスが早々とレースを去る誤算があったとは言え、総合順位だけに絞るチームが、ステージの最終山岳で自滅的にエースを丸裸にする罪は、重い。

このジロが終わった後、ログリッチェが何を語るか、あるいは何を語らないのか、深読みして楽しみたい。

References: The Cycling Podcast, サイバナ

クライスヴァイクは無理だったとしても、せめてジョージ・ベネットぐらいは連れてきてあげても良かっただろうに…。