「100rpmを越えるな」ログリッチ陥落をランスが徹底分析

ツール・ド・フランス幻の7連覇者ことランス・アームストロングのポッドキャスト番組「THE MOVE」。

それまで総合首位に立っていたプリモシュ・ログリッチが、57秒遅れだったダディ・ポガチャルに逆転負けする歴史的な第20ステージを、ランスと盟友ジョージ・ヒンカピーの二人が語り合った。

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追われる者しか分からぬ地獄

ランス・アームストロング:

言葉がない。みんな言葉が見つからないんじゃないだろうか。後世に語り継がれるレースになった。過去最高とも言えるかもしれない。…と同時に、ヤツ(ログリッチ)に対する同情で胸がいっぱいだ。

ジョージ・ヒンカピー:

ランス、君はログリッチと全く同じ状況にいたことがあるよね?2003年のツールだ。

その1週間前のタイムトライアルでタイム差を縮められたウルリッヒに、それほど差がない状態で行うレース前のウォームアップはどんな心境だったんだい?レース前のプリモシュ(ログリッチ)と全く同じ状況だったと思うのだが。

ランス:

単純さ、恐怖。恐怖しかなかった。

スタートを切り、ウルリッヒは最初の1kmを俺よりも6秒速く通過したんだ。50kmの個人TTだぞ?瞬間的に頭で計算して「これは終わったな」って思った。だから加速した。だがそれでも十分じゃないと分っていた。

そして残念なのことに、ヤン(ウルリッヒ)が落車したんだ。無線でヤツの落車を聞いた時、もちろん人の落車にふさわしくない感情なのだが、その瞬間はとてつもない安堵感があった。でもあの時は雨が降っていて道路も滑りやすく…

ヒンカピー:

(ウルリッヒの落車前までの)優勝に赤信号が灯った時、どんな気持ちだった?

ランス:

最悪だ。どんな酷い場所でもあそこよりは何百倍もマシに思える。とにかく最悪の気分だ。

今日のレース直後、ログリッチはポガチャルのところに歩み寄り、ハグをして「よくやった」という言葉をかけた。脱帽だよまったく。俺にはそんなこと絶対にできない。絶対に無理だ。

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中途半端だぞ山岳賞

マイヨアポワ(山岳賞)の存在価値を真っ向から否定し、番組でそのジャージを目指す選手を度々ディスってきたランス。

その理由を「一番強いクライマーの手に渡らないから」だと語る。しかし今大会のマイヨアポワはポガチャルが獲得。非常に満足そうなランスがその訳を語った。

ランス:

最後にこれだけは言いたい。ログリッチの陥落はショックだし、胸も痛む。しかしだな、俺はいま信じられないぐらい興奮しているし、満足感に満ちあふれている。なぜだか分かるか?

それはな、長い歴史の末やっとレースで一番強いクライマーにマイヨアポワ(山岳賞)が渡り、シャンゼリゼで着ることになったからだ。

レースで最も強いやつがマイヨジョーヌを着て、最もスプリントの速いサム・ベネットがマイヨヴェールを着る。山岳で一番強いやつがマイヨアポワを着るのは当然だろ?いままでがおかしかったんだよ。

ハイケイデンスにはご用心

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リプレイ動画と見間違えるほどスムーズなライディングフォームが特徴のログリッチ。しかし第20ステージでそのペダリングが乱れに乱れ、ハイケイデンスで登りに入るともはや別人のようだった。

登りの概念をその高ケイデンスなペダリングで変えた張本人、ランス・アームストロングがハイケイデンスの注意点を語った。

ランス:

ログリッチはケイデンスが高すぎていたし、とても居心地が悪そうに走ってた。ハイケイデンス自体は良いのだが、100rpmを越えると途端に効率が悪くなる。これは変えようのない事実だ。バイクチェーンは100rpmを越えると無駄の方が大きくなる。

それと今日の要であるバイク交換についても話したい。

メカニックの年収はいくらだ?せいぜい5,000ドル(約500万円)ぐらいだろう?そんな薄給のメカニックにバイク交換という絶対に失敗が許されない大仕事を任せていいのか?

今日のタイムトライアルではみなスムーズに行われていたが、あんなプレッシャーの掛かる仕事をするんだ。もっと金を与えてもいいとは思わないか?

ヒンカピー:

プリモシュのバイク交換は悪くなかったが、ポガチャルのと比べると拙さがあった。ポガチャルはこのコースで試走を3回行っていて、そのうちの1回は完全にレースと同じ状況で行った。つまり彼らは交換することでどれだけのタイムロスが起こるのかを正確に把握していたんだ。