「フランス人は勝者が嫌いなんだよ」ランス・アームストロングによる2018年ツール第20st評

 

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ランス・アームストロング:

今日は、ボビー・ジュリックとスカイプが繋がっている。ボビーは俺たちと一緒に走り、その後はチームスカイのスタッフとして何年間か働いた経験があるんだ。*現在はアメリカのプロコンチーム”ホロウェスコ・シタデル”で指揮をとっている

ボビー?聞こえるか?

ボビー・ジュリック:

聞こえるよ。こんにちは。

ランス:今日タイムトライアルでは、トップ5が2つのチームで占められていた。スカイ3人と、サンウェブが2人だ。これは珍しいことだろ?

順位  名前  タイム
1位 トム・デュムラン(歳/サンウェブ) 40分52秒
2位 クリストファー・フルーム(33歳/スカイ)  +01
3位 ゲラント・トーマス(32歳/チームスカイ)  +14
4位 ミカル・クウィアトコウスキー(28歳/スカイ  +50
5位 ソーレンクラーク・アンデルセン(23歳/サンウェブ)  +51


ジュリック:君たちが現役の時にこういうことしていなかった?

ツール終盤のタイムトライアルは、選手にどれだけ体力が残されているかの勝負なんだ。だから、選手の栄養管理など、回復する環境が整っているチームが強いのだよ。だからチームスカイはルーク・ロウを含めた全員がトップ25に入っている。すごいことだよね。

ランス:俺たちの時代は、朝軽く走ってレース直前に1時間ほどローラーに乗っていた。だが、ジョージに聞いて驚いたのが、いまはたったの25分なんだろ?

ジュリック:ああ。あの時代は明らかにやりすぎてたね。今は3時間半前に食事して、その後昼寝などゆっくり過ごし、35分前から25分間のウォームアップをするんだけだよ。

ジョージ・ヒンカピー:

君はアメリカで最も優秀なタイムトライアルの選手だったわけだけど、スカイのハンドルバーについて教えてよ。スカイが唯一3Dプリントによって作成したものを使っていたと聞いたけど?

ジュリック:他のチームより明らかに風洞実験に費やす時間は長いからね。常の改善できるところを求め、実行するという”チームの習慣”の一つさ。バーも注目すべき点だけど、パッド(アームレスト)の位置にも相当な改善が施されているんだ。

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ヒンカピー:君はスカイで何年か働いていた時、フルームの桁違いの数値について話してくれたね。だけど、そうではないゲラント・トーマスがツールで勝つ日がくると思っていた?

ジュリック:ゲラント・トーマスはどちらかというと、クラシックや石畳のあるレースに注力していたようだった。彼は18、19歳の頃にイギリス自転車強化のシステムに参加して、とてもハードワークをする選手だったよ。

ヒンカピー:来年のスカイはどうなると思う?ゲラント・トーマスとフルームの共存はあり得る?

ジュリック:スカイにはゲラント・トーマスクリス・フルームというツールで勝った実績のある二人の選手と、エガン・ベルナルという将来のツールで活躍が期待される若手選手がいる。この3つの異なったエゴをどうチームがマネジメントするのか。だけど、スカイには勝利の為に最適化された環境が整っているんだ。ここ7年で6回もツールを勝っているわけだからね。だから共存も可能だろう。また、報道によればベルナルは5年契約を結んだらしいね。ゲラントはどうなんだろ?

ランス:俺が得た情報によれば、ゲラント・トーマスがツール直前に結んだ契約は口頭であって、サイン自体はしていないらしい。つまりそんな契約、なんとでもなるということだ。

ーーもちろん選手にはみな代理人がいるんだよね?

ランス:ああ。ちなみにゲラント・トーマスの代理人は、元UCIのパット・マクウィン(2006~14年)の息子らしいな。だからってサインしていないことを直接聞いたわけじゃないぞ?*マクウィンはランス事件への関与が取り沙汰され、UCI選挙選で前会長クックソンに敗れた

ーー正式な契約していないんだったら、今後の動きが楽しみだね。

ランス:だが、どこのチームにツール王者を雇えるだけの金銭的余裕があるかって話だけどな。



ランス:ボビー、スカイが実践しているケトジェニック(ケトン体)について教えてくれ。これはつまり、ケトン体を補給し、身体をエネルギーとして脂質を使わなくてはいけない状態にすることで、炭水化物ではなく、血液中に存在する脂肪が分解され、ケトン体がエネルギーとして使われること…で合っているか?*意訳です。スカイは最先端な補給をしているというニュアンスだけ伝われば

ジュリック:えっと、まず前提としてはケトン体はWADA(世界ドーピング防止機構)に認められている方法で、それほど新しいことではないんだ。なぜか最近話題になりはじめて、僕たちも何年もこれについて注目している。だけど、これは万人に向けられた方法ではなく、正しい方法でないと意味がないんだ。

これは燃焼させられる新しいエネルギー源をもう一つ得るようなものだ。これを摂取したところで大幅な変化というものはないが、研究によると確かに少しだけ高い強度を少しだけ長い時間持続できるようになるらしい。だけど、これによって300Wが450Wになるような代物ではない。

これを開発したオックスフォード大学の女性に話を聞いた時には「これは新しい食品群に属するのだ」と言っていた。

つまり、魔法のようなものではないということだよ。

ランス:これをチームが導入する時のハードルは値段らしいな。高いんだろ?一回の補給に30ドル(約3,300円)かかるらしい。

ヒンカピー:僕が聞いた話では、5時間のステージだったら、3~4本を飲まなくちゃ効果はないんだって?だったら100ドル以上だ。

ジュリック:レース後の回復時にも飲まなくちゃいけないから、もっと高いよ。

ランス:それにクソ不味いとも聞いたな。

ーーこれはどこで買えるの?医者の処方が必要?

ヒンカピー:ネットで簡単に買えるよ。

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ーーボビー、君がスカイで働いていた頃に興味深かったトレーニングや施策なんかはあるかい?

ジュリック:えっと、まず僕は相当なバイアスがかかっていると思ってくれ。なぜなら、僕はデイブ・ブライルスフォードがこの世で最も優秀なGMだと思っているし…

ランス:ちょっと待ってくれ。ボビー?本気で言ってるのか?頭は大丈夫か?クソアホ野郎だぞ?

ジュリック:少なくとも僕がいた時は優秀だったよ?笑

僕がいた2011年〜12年は、ブラッドリー・ウィギンスがツール総合優勝へ向かってチームが一丸となっていた頃だった。スカイではいつもファイルがあって、そこには ”いま以上にお金や人手が手に入ったらやるべきこと” が書かれたいたんだ。つまり、その2つが得られた直後からそれが実行できるようにとね。例えば3Dのハンドルバーや、キッチントラック、各選手専用の洗濯機と乾燥機、ベッド関係など、あらゆることに対する改善が常に考えられていた。みんなそれを嫌うのかもしれないけど、人が眼の前にある仕事を全力で取り組めば、自ずと成功する。準備のしない人間に偉業は訪れない。その努力については敬意を払わなければいけないと思うんだ。

ーー準備のしない人間に偉業は訪れない。いい言葉だね。

ランス:ところで、君たちのチーム(ホロウェスコ・シタデル)はどうだい?ユタとコロラドに出場するんだって?

ジュリック:そうなんだ。それにデンマークとアークティック・レース・オブ・ノルウェーにも出るよ。

ヒンカピー:チームとして初めてのASOが主催するレースだよね?それは楽しみだね。

ジュリック:そうなんだ。

ーー誰に注目すればいいの?

ジュリック:みんなテイラー・アイゼンハートは知っているでしょ?彼は注目だよ。他にもたくさん。

ヒンカピー:ありがとう。

ジュリック:こちらこそ!



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ーーランス、君の今日のMVPは誰?

ランス:クリス・フルームだヤツは何回もツールで総合優勝しているから3位という順位には何の意味もないと思っていた。だが、今日の走りを見る限り違ったみだいだな。真のチャンピオンの走りを見せてくれた。鋭かった。

ーーフルームではなくゲラント・トーマスが優勝したことで、フルームに対する批判はマシになったりするのかな?世間の評判はどうすれば変えられるのかな?

ランス:第一に、フルームはもう批判に慣れているだろう。第二に、批判を受けて当然だ。毎年のように勝っていたのだからな。禅の心を持つしかないんじゃないか?俺の時も同様だったし。しかし、パンチされたりスカイのチームカーに卵が投げつけられたりするのは…

ヒンカピー:ランスはフランス語を上達させることで、フランス人のインタビューに答えたりしたよね。あれはある程度フランスのファンを穏やかにさせたんじゃない?

ランス:そんなこと、あったか?*照れてます

ヒンカピー:してたじゃん。

ランス:あれの恩恵はなにもなかったけどな。コイツら全員クソだなとしか思っていなかったぞ?変化なんて感じなかった。*照れてます

ヒンカピー:僕は感じていたよ。

ランス:ホントか?*照れてます



ランス:今回のツールを観ていて面白かったのが、コロンビア人のベルナルに対してはブーイングはなかったが、ゲラント・トーマスにはブーイングがあった。そこにはどんな法則性があるんだ?全く理解できない。

ヒンカピー:このレベルの選手(ゲラント・トーマスやクリス・フルーム)は、誰もファンのことなんて気にしないよね。長年の夢の為に走っているし、ここまで高いレベルの選手にブーイングなんて何の影響も及ぼさないよ。

ーーツールには長い間、誰かが圧倒的な力で勝ち続けると、いつからかファンはアンチに変わるという歴史があるんでしょ?つまり、一人が勝ち続ける姿なんて観たくない。だからこそ主催者は勝ち続けられないように色々と策を練ってくるんだよね?

ランス:フランス人が何が嫌いか知っているか?奴らは勝者が嫌いなんだ。俺が現役の時、どこの新聞社か忘れたが、「フランスで最も不人気のスポーツ選手」というのを調べていたんだ。

そしたら、

1位 ランス・アームストロング
2位 ミハエル・シューマッハ(F1)*マイケルから修正しました
3位 セリーナ・ウィリアムズ(テニス)

だった。

ヒンカピー:アメリカ人が二人も。

ーー絶対的な王者が嫌なんだろうね。

レイモン・プリドール*ご指摘があり修正しました。は2位ばかりの選手だったのに、フランスで最も人気の高い選手だった。敗者の中で1位のな。

ヒンカピー:じゃあ僕はフランスで人気者だね、ルーベも2位だったし。現役の時は2位ばかりだった。

…そうか!だから僕の奥さんはフランス人なんだ!笑



ーー明日のシャンゼリゼで終わりだね。

ランス:そうだな。今日はこの後、ツール最後の記者会見だ。明日ではなく今夜記者会見をして、明日のフィニッシュ後は表彰式と、その後はスポンサーを呼んだパーティーしかない。気楽だな。

ーージョージは今日で最後なんだけど、今回のツールはどうだった?

ヒンカピー:今回のツールは、来年に向けてとても興味深い終わり方だったよね。ログリッチ(28歳/ロットNL)が現れたし、ジロの疲れが残っていたクリス・フルームは来年こそは万全の状態で挑んでくるだろうし、ゲラント・トーマスも来年また狙ってくるだろう。トム・デュムランはパンクとペナルティで1分13秒失ってもこの順位だったし、来年のツールは激戦になること間違いなしだ。いまから楽しみだ。

ーー来年のフルームは5勝目に挑むんでしょ?当然ジロなんて出ないだろうし。

ランス:トム・デュムランはパンクとペナルティがなければな31秒差だった。これはかなりの接戦だ。

それと、昨日のゲラント・トーマスのフィニッシュを観たか?

ーーどういう意味?何かあったっけ?

ヒンカピー:あんなのは初めて見たね。

ーー何のこと?

ランス:ゲラント・トーマスは両手を挙げたガッツポーズでフィニッシュでしたんだ。

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ランス:タイムトライアル用の自転車というのはバランスが難しく、両手を離すのは極めて難しいのにも関わらずな。

ヒンカピー:普通、片手はハンドルバーに残したままガッツポーズするよね。あんなの見たこと無い。

ランス:俺は絶対できない芸当だ。

ーーなるほどね。ジョージ、みんなが君の予想を聞きたがっている。明日は誰が勝つと思う?

ヒンカピー:クリストフ(31歳/UAE)

ランス:ワァオ。断言した。

ーーじゃあ、今日のMVPは?

ヒンカピー:トム・デュムランだね。昨日(第19ステージ)もずっとログリッチを追っていたし、今日はステージ勝利だ。

ランス:今日観ながらジョージに「デュムランはツールを勝てるか?って聞いたんだ。そしてたら勝てる」って。

ヒンカピー:このツールで自信を深めただろうなからね。

ランス:ありがとうジョージ。

ヒンカピー:こちらこそ。

ランス:また明日!

 

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・一部を抜粋し、回を重ねるごとに意訳の割合が増えながらも訳した音源はコチラ↓

・翻訳が待たれるけど、どーせされないんだろうなと思っているゲラント・トーマスの自伝はコチラ↓

・スカイの徹底管理された栄養補給に関する記事は↓が興味深かった。

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