「レースは退屈になってしまったのだろうか?」ランス・アームストロングによる2018年ツール第12st評

ゲラント・トーマスがアルプスで2連勝。マイヨ・ジョーヌ確保。マイヨ・ジョーヌ。完璧。

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ランス・アームストロング:

ハロー!『THE MOVE』にようこそ!今日のフランスは暑かったらしいな。第1週目からの暑さが第2週目に入っても続いているわけが…

ジョージ・ヒンカピー:

ちょ、ちょっと、ちょっと待って。ねぇランス。君はなんで…サイクリングジャージ着ているの?てか何それ?ポッドキャスト番組だよ?

ランス:この後、すぐに自転車乗るためだよ。仕事ばかりしている君と違って俺は暇だからな。君が仕事している間、距離を稼がないと負けてしまうからな。ちなみにこれオリジナルのRaphaとのコラボジャージだ。この番組のメンバー限定商品だぞ?

ーー気になるリスナーは是非ともサイトに訪れてみてくれ。さて、今日のステージの話をしよう。

ヒンカピー:ゲラント・トーマス(33歳/ウェールズ)が今日も勝つとは思わなかった。また、キンタナ(28歳/コロンビア)が落ちるとも思っていなかった。仕掛けて、捕まり、その後置いていかれた。

ランス:バッド・デイでただ遅れるなら分かるが、キンタナはその前にアタックしている。つまり、間違いを犯したということだな。

ーーつまり、アタックを仕掛けられるほどの体調じゃなかったということ?

ランス:ああ。把握しておかなければならなかった。あの集団にいるのならば、自分の体調や数値、ライバルの調子を観察する能力があるはずだ。さもなければ…ああいうことになる。

ヒンカピー:今日は特にデュムラン(27歳/オランダ)が凄かったな。昨日のステージの影響で苦しむと思っていたのに、あの先頭集団で強い選手の一人だった。レース後のインタビューで、「アタックした瞬間、向かい風が吹いてきた」と答えていたから、実質的にあの中でデュムランが一番強かったんじゃないかな?

ーーそれに今日はずっとスカイの選手に付けられていたからね。最初はフルームで、その後はゲラント・トーマスだったよね。

ランス:まず前提として、デュムランはデカい選手だから、山岳で加速は出来ないし、他の選手の加速にも対応も苦手なはずだ。自分の出力をコントロールして、自分のゾーンに留まり、他の選手が先に行ったとしても気にせず、ディーゼルエンジンのように淡々と登っている。インデュラインもそうだった。他の選手のアタックに反応せず、淡々と登っていくんだ。今日のデュムランは本当に凄かったよ。



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ーー今日の主役である4人(ゲラント・トーマス、フルーム、デュムラン、バルデ)ついて何か意見は?

ランス:あの四人が綺麗に横一列に並んだ時は、思わず目を見開いたな。

ーー残り2、3km地点だったよね。

ランス:だが、落車したニバリが戻ってきそうになるぐらい牽制しあい、スピードが落ちた。

ヒンカピー:それがダブルエースの影響だろうね。もし片方がアシストだったら、先頭を引いて統制が保たれていたはずだ。キンタナやニバリとのタイム差ももっと稼げただろうしね。

でも今日のニバリは素晴らしかったね。落車してもまた戻ってきた。もう少しで追いつくほどだった。落車がなければステージを勝っていたかもしれない。

ーーニバリが落車した映像はどれも何かしらの影になって、原因が確認できなかったね。

ランス:レース後のインタビューによると、ニバリ自身、何が起こったかが分かっていないようだったな。山岳フィニッシュのステージは、フィニッシュ地点の3km手前から観客とコースを隔てるフェンスが設置されている。

ヒンカピー:でもニバリが落車した箇所は、残り3kmを切っていたけどフェンスなんて無かったよ?

ランス:いや、あったのだが、煙幕やおかしな観客、警察モトや取材モトがごちゃ混ぜになってフェンスが意味をなしていなかったんだ。恐らく。

ーー君たちが現役の頃からああいった煙幕はあったの?

ヒンカピー:あったよ。ラルプ・デュエズの頂上付近はいつだって悪ノリのパーティーが開かれている。

ランス:ラルプ・デュエズといえば、毎年注目されるが頂上までのタイムだ。今日勝利したゲラント・トーマスのタイムは41分15秒で、過去最高記録のマルコ・パンターニの持つ36分40秒と比べて4分35秒遅かったんだ。しかもそのタイムはトップ100にも入っていない。あっ、ちなみにパンターニのタイムに並ぶ記録を出した選手が過去にいたはずだが、ここには書かれていない。

ヒンカピー:牽制によって450Wから300Wに落ちたらしいからね。そりゃニバリも迫れたわけだ。だからこそバルデもアタックできた。

ランス:そういえば、サガンが離婚したらしいな。そりゃ心の負担があるだろう。今回のツールでヤツはちょっとおかしかったもんな。

ヒンカピー:ツールは世界最大のスポーツイベントだけど、人生の方が大切なわけだしね。ここまで素晴らしい走りは見せているけど、色んなことが彼の胸の中にはあるんだろうね。



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ランス:今日はヨハン・ブリュイネール*ランスとヒンカピーが現役時代の監督。現在はUSADAから10年間スポーツ活動禁止処分中に電話してみよう。そういうリクエストが多かったんだ。

ヒンカピー:もしもし。こんにちは。そっちはこんばんは、かな?

ヨハン・ブリュイネール

こんばんは。

ランス:ヨハン、老害と化してしまったベルナール・イノーが、アタックをしない今の選手たちのことを「弱虫ども(sissy)」と称したらしいが、そうなのか?

ヨハン:それツール期間中の発言?

ランス:そうだ。昔と比べると、やはりダイナミズムなどは落ちてしまったのだろうか?

ヨハン:個人的な見解では、ここ20年のレース状況はそれほど変わっていないように見えるけどね。

ヒンカピー:ヨハン、監督の視点からアタックしたのに先頭から落ちたキンタナについてどう思う?

ヨハン:僕からはランダとキンタナは両方とも力が残っていなくて、恐らくチームカーからアタックの指示があったんだろうと思う。たぶんキンタナのアタックに強い意志はなかったのだと思うよ。指示に従ったまでだと。

ヒンカピー:その見立ては筋が通っているね。そうなのだったら彼らはモビスターの監督に対して不信感が募っているだろうね。

ランス:ちなみに、君の優勝候補は誰だい?

ヨハン:フルームかな。確かにゲラント・トーマスは強いが、彼は山岳で大きなギヤを使う選手だ。クライマーというよりはルーラーっぽい選手。これから訪れるピレネーはピュアクライマー向きだからね。それにフルームは実績が十分だし。でも今日のゲラントの走りには驚いたし、チャンスはまだあるはずだ。

ランス:ありがとうヨハン。愛してるぜ!

ヨハン:ありがとう。

ランス:…ヨハン、愛してると返してくれなかったな。

ーー聞こえなかったんじゃないの?

そうか。また明日!

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・一部を抜粋し、回を重ねるごとに意訳の割合が増えている音源はコチラ↓

・これを読まずしてゲラント・トーマスのファンだと語るべからず。未来の総合優勝者による現状唯一の自伝。続編待たれる!

・ヨハン・ブリュイネールも登場しているランス自伝はコチラ↓

・こっちにもヨハン・ブリュイネールが出ている、ランス・アームストロングの暗部を知りたい人はコチラ↓