幻の7連覇者ランス・アームストロングによる自転車ロードレースの改革案です。その2です。その1はこちらから。
*ランスの改革案はすべて本人が語っているものですが、インタビューそのものは創作です。
選手のデータを有効活用しろ!
ーーマラソンのベストタイムは?
ランス:2時間46分43秒だ。なんだよ急に。この前走ったオースティン・マラソンは3時間以上かかったけどな。トレーニングが足りないな。
ーー本題に戻りまして、レース中継をより面白くするためにいくつかの方法があるとおっしゃっていますが、具体的に教えてもらえますか?
ランス:いろいろなデータや統計値をテレビ中継で使えばいいんだ。有力選手の位置情報をGPSで表示するとか、選手個人の心拍数とか、有力選手の最終山岳での出力ワット数を表示するとか、モータースポーツでやっていることをだ。
ーー現在のツールなどでワット数が表示されることはありますが、どちらかというとプラスアルファの情報としてしか使われていないような気がします。
ランス:そうなんだ。またもう一つ俺がずっと思っていることで、ファンが興味を持ち、視聴者に共有するべきなのが無線だ。NASCAR(米自動車レース)では、ドライバーとスポッター(無線を通じて情報ドライバーに伝える役割)、ピットクルーの無線が聴けるんだ。これにより、戦略などをファンは知ることができ、レースがより面白くなる。
ーーミッチェルトン・スコットが独自に制作しているレビュー動画で、チームカーからホワイト監督が指示している姿を公開していますが、やはり手の内を明かさないような配慮が感じられます。チームとしては戦術が明らかになってしまうので、反対意見の方が多いのではないでしょうか?
ランス:もちろん無線公開に対しては、反対意見や保守的な奴らの躊躇もあるだろう。まずはチームや各監督の了承が必要だ。だが、それと引き換えにレースを面白くなるのは間違いない。ファンをより内部に導けるんだ。
ーーチームの利益よりもスポーツ全体のメリットを優先しろということですね。なるほど。しかし、日本の中継ではそもそも英語やフランス語、スペイン語の不明瞭な無線の音声を聴き、理解し伝えられる実況者や解説者がどれだけいるかなど、不安な点もありますね。それがF1中継でサッシャさんが重宝される理由でしょうし。
無線の傍受が当たり前だった時代…
ランス:まぁ、そこら辺はやりながら改善するしかないだろうな。そもそも各チームの共通言語が違うわけだからな。
無線といえば俺が現役の頃、チームがそれぞれ独自の無線を持っていたのだが、みなそれぞれの無線を…なんというか…ハックし合っていた(傍受していた)んだな。だからレースとは別に、チーム間での心理戦も繰り広げられていたわけだ。
あれはラルプ・デュエズでのことだった。チームカーに戻った俺は、ヨハン(ブリュイネール監督)に小声で「これから俺が無線で言うことは何一つ信じるな」と伝えたんだ。ヨハンは俺を頭がおかしくなったかのような目でみたが、その後集団に戻った俺は無線で「体調がとても悪い」と伝えたんだ。
当然それは他のチームの監督たちに伝わり、選手たちに「ランスは今日バッド・デイだ!アタックしろ!」と伝えはじめた。俺は選手たちに心理的な余裕が広がるのを待った。そして、逆に圧倒的な心理的なアドバンテージを得た俺は、自ら仕掛けたんだ。
ーーすごい話ですね…。なんというか、すごい話だ…。
ランス:現在のレースでもありとあらゆる情報が飛び交っている。それでレースが面白くなるのなら、観客と共有してもいいだろう?
俺たちには新しく、若い血が必要なんだよ。プロサイクリングのテレビ中継にはな。ここにはまだ手のついていない、数多の優良なコンテンツと可能性に溢れている。
ーー確かにその騙し合いは、ファンには絶対に伝わりませんね。個人的にも、たまらない話です。
ゼッケン(わかりやすさ)とエウスカルテル(地域性)
ランス:アイディアはまだあるぞ。全選手が公式のゼッケン番号をつければいいんだ。これはシーズン中変わらない番号だ。それをジャージに印刷する。そうすればレースの度にピン留めするなんてバカらしいことがなくなる。こういった小さな変更が、ファンがスポーツを追っかけるキッカケになるんだ。その子どもが自分のヒーローを見つけ、大ファンになっていく過程へと導いてくれるだろう。
ーーなるほど。たとえば個人のUCIポイントに応じて、選手が年間を通した番号をつければわかりやすいですし、なによりファンはその番号がプリントされたジャージが欲しくなりますね。無地よりも多少値段が高くなったとしても。それに現行UCIポイントのルールだと、チームやナショナル的に意味があっても、移籍する選手以外に個人としての恩恵は少ないですしね。
ランス:あと、チームも変わらないとな。より地域に根ざした、あるいは地域のアイデンティティを持ったチーム、それがスポーツを良くする。たとえば、エウスカルテルのようなチームがまた現れるらしいな。
ーーたしかに今のチームに地域色は希薄ですね。エウスカルテル・エウスカディはスペインのバスク州が後援していたチームでしたよね?イザギレ兄弟や、ミケル・ニエベを輩出した。2013年に解散しましたけど、F1ドライバーのフェルナンド・アロンソがスポンサーに名乗り出るぐらい、スペインでは愛されたチームでした。
ランス:エウスカルテルは強い地域色を持ったチームのよい例だろう。ファンは地理的にも文化的にも近いチームとアイデンティティを共有し、多くのファンを集めていた。だが、いくら良い地域チームであっても、観客を魅了するスター選手が必要だけどな。
ーーそういった意味では、昨年のツールで総合優勝したゲラント・トーマス(ウェールズ)、世界選手権でアルカンシェルを獲得したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)価値は、チームにとって大きかったでしょうね。
大きな絵を描ける人が、自転車ロードレースにはいない
ランス:俺が挙げた改革案なんて、ここ数年で取りざたされてきたものばかりだ。しかしなぜこれらが実行されないのだろうか?それはレース主催者が歴史的なレガシーと自転車ロードレース独自の内輪な期待によって、盲目的になってしまっているからだろう。
大きな絵を描ける人間がいないんだ。だから皆新しいことに怖がってしまう。自転車ロードレースの外からの視点で考えられる人間、新しい取り組みを実行できる主催者が必要だ。
ーー日本で働く者としてめちゃくちゃ共感できる話ですね。「前例がないから」という理由で新しい考えは否定される社会ですから。社内規定だからという理由でいまだ請求書に実印が求められますし、法的には必要ないのにも関わらず。
ランス:実印?
ーーハンコのことです。日本ではサインの代わりにハンコを使うんですよ。
ランス:そりゃ面白いな。
ーー頭の悪い悪しき習慣ですけどね。
ランス:日本同様、ヨーロッパもゲームチェンジャーが嫌いだからな。
ーー「ルールを作る」が選択肢として普通にあるのはアメリカ人の好きなところですね。だからあなたの考えは面白い。
ランス:本題に戻っていいか?
ーー今回はこの辺りにして、次回にしましょう。
ランス:ああ、また次回!!
Source: Velo News