ディスクブレーキがツールを総合優勝する日はくるのか?

7月9日、チームイネオスがクリス・フルーム(35歳)と2021年以降の契約を結ばない旨を発表。

そのわずか一時間後に、今度はイスラエル・スタートアップネイションがフルームの加入を発表した。UCIが定める選手との本契約期間は8月1日からだが、イスラエルはその規則を無視する形で「8月1日に契約する」ことの発表となった。

2015年にプロコンチネンタルチームとして発足したイスラエル・スタートアップネイションは、昨年スポンサーが撤退したカチューシャ・アルペシンのライセンスを引き継ぐ形でワールドツアーに参戦。チームのオーナーを務めるのは、ユダヤ系カナダ人のシルヴァン・アダムス(61歳)。資産家であると同時に、マスターズ世界選手権で複数回チャンピオンに輝く自転車フリークとしても知られている。

若く野心溢れるチームを最短の道筋でステップアップさせたいオーナーと、ツール5勝目を果たしたいフルーム両者の思惑が合致して実現した今回の契約合意(予定)。

そしてフルームがイスラエルに移籍することで変わるのは、なにもジャージの色だけではなく、これまで数々の栄冠を獲得してきたピナレロから、ファクターに乗り換えることになるのだ。

イギリス生まれの新興勢力

ファクターは2007年にイギリスで創設された新興ブランド。

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航空宇宙産業に関わるエンジニアリング集団「bf1systems」によるデザインというキャッチコピーの元、ロマン・バルデが所属するAG2Rと契約し2017年にワールドツアーデビューを果たす。それが2018年に終了後、一年の後に2020年イスラエルと3年のパートナシップを締結した(2023年末まで)。

世界一のオールラウンドバイクと言われるピナレロ Dogma F12(フルームはより軽量なX-Lightに乗っている) からフルームが乗り変えるのは、昨年リリースされたファクター O2 V.A.M。曲線的なフォルムが特徴のドグマとは違い、シンプルな形状とディスクブレーキのフレームで重量700g(54サイズ)という軽さが売りのバイクとなっている。

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ディスクブレーキでツールは勝てるのか

来季のフルームに注目されるのはずばり「フルームがディスクブレーキに乗るかどうか」だ。

今季イスラエルの選手たちはみなディスクブレーキに乗っているが、O2 VAMはより軽量なリアブレーキ(630g/54サイズ)もあり、フルーム体制になった時にどういった選択になるのかが注目される。(そして日本では滅多にお目にかかれないファクターがどれだけ広まるかも気になる)

イネオスを離れたフルームがツールを勝てるのかと同時に、ピナレロ以外のバイクで勝つことができるのか、そしていまだ成し遂げられていないディスクブレーキでのツール総合優勝がかかっているのだ。

乗り換え、概ね問題なし

ファクターの細部を見てみるとベースはシマノ・デュラエースDI2(油圧ディスクブレーキ)を基本としたコンポーネントだが、シマノのフルサポートは受けていないので、セラミックスピードのOSPWプーリーとボトムブラケットを取り付ける。

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注目選手がいないチームあるあるとして(各メディアの取り上げないので)情報が乏しいのだが、今季初めのツアー・ダウンアンダーから変更がなければKMCのチェーンにスイスストップのディスクブレーキローター&パッドを使用する。

フルームの代名詞である楕円チェーリングの使用に問題はなさそうだが、未舗装路を含むレースなどでチェーン落ち防止のためにチェーンステー下に取り付けれる3Dプリンターで作成したブロックは、O2 VAMのフレームでも見られるかもしれない。

ホイールはシックなロゴが逆に目立つファクターの姉妹ブランド「ブラックインク」、タイヤはコンチネンタルからマキシスになる。

ハンドルもブラックインクのステム一体型のエアロ&超軽量ハンドル。サイクルコンピュータはガーミンからブライトンへ。パワーメーターはデュラエースからエントリーライダーに人気でお馴染みの4iiii(フォーアイ)に変わる。

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サドルはフィジークからセッレイタリアへ。2018年ジロでフルームがロゴを消したスペシャライズドのパワーサドルを使ったことは有名だが、セッレイタリアは今年6月にショートノーズの「FLITE BOOST」をリリースしているので、フルームのお尻も安心だ。

カスク(KASK)のヘルメットからジロ(GIRO)へ、カステリ(Castelli)のジャージはカチューシャ・スポーツと新しく資金力が潤沢とは言えないメーカーで空力性能等の不安がなくもない。またチームはビンディングシューズはボント(Bont)がサプライヤーについているが、フルームは引き続きSIDIを使うと考えられる。

まとめ

コンポもそこまで変わらないし、”バイクに関して”はあんまり問題なさそう。

(続く)