第101回ジロ・デ・イタリア、3度目の休息日である5月21日(月)に放送したランス・アームストロングのポッドキャスト『THE MOVE』の「第2週目レビュー」を一部抜粋して翻訳しました。
【悲報】ランス・アームストロングが自身のポッドキャストの中で「ウィリーができない」と告白。また「毎年、自転車のシーズンがくる度に”ウィリーを覚えよう”と決意するがいまだに達成できていない」と説明。なんか残念。https://t.co/WIbv3Hgks8 pic.twitter.com/lrZTzZszYg
— Sorato | plenty of… (@If_So_Ara) 2018年5月25日
↑↑これが発覚した回です。
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パンチじゃない。撫でただけだ
ランス・アームストロング:ツアー・オブ・イタリー(ジロ・デ・イタリア)の第2週目が終わったわけだが、まあまあ面白かったよな。そして俺は「休息日明けの第10ステージでは何かが起こる」と予言し、見事的中したな。
ーー良い予想だったね。
ランス:休息日明けの山岳レースでは必ず誰かに問題が起こるんだ。
ーーその言う通りになったね。
ランス:ああ。エスティバン・チャベスが25分失った。
ーーゾンコランの戦いはどうだった?
ランス:まずリスナーに言っておきたいのが、俺はこの山を登ったことがないし、平均勾配が12%で10kmもある山岳を登りたいとも思わない。それも最高勾配が22%だぞ?運営は正気か?
それにサム・ベネットっていう選手がウィリーして登ったらしいな。
ーーしかもつづら折りのコーナーでもウィリーをしていたらしい。
ランス:それは見たかったな。というかな、俺はウィリーができないんだ。毎年「今年こそウィリーができるように練習しよう」と誓うのだが、いまだ叶っていない。
奴がウィリーしたときの勾配も気になるな。別次元な芸当だよ。
ーーそれに恐竜退治もあったね。観た?
ランス:いいや、記事で読んだけだ。「クリス・フルームが恐竜と戦った!」ってな。
ランス:あんなの撫でただけだろ?
ーーパンチに見えなかった?
ランス:いいや。あれは軽く撫でただけだ。でもあの恐竜はテレビに映るには賢い方法だったかもな。
あと、少しはフルームの走りを称賛しなきゃいけないな。フルームにとって今回のジロは厳しい戦いを強いられるが、あの日は何かが目覚めたのだろう。あれはラッキーな勝利なんかじゃない。緻密な作戦とチームワークの協力があってこそ、残り4.5kmから仕掛けられた(the move)。あっ、それとこのポッドキャスト番組の名前が「THE STAGES」から「THE MOVE」に変わったんだ。よろしくな。
一口ピザにしか見えないフルームのギヤ
フルームの走りの何が驚いたかといえば、ゴール前の急勾配で100rpm以上のケイデンスで回していたことだ。一体どんなギヤ使ってるんだ?!って思って調べたのだが……
ーーこの話題については昨年のツールでも触れたけど、あんな高回転で脚を回す選手は見たことがない。
ランス:リスナーの為にわかりやすく説明すると、昔の選手はいまよりも大きいギヤを付けていた。だいたい「53✕42」ぐらいかな。時が立つにつれ「53」は最大の平均として残ったが、最小のギヤは徐々に小さくなっていった。俺が現役だった時代、小さくても「39」ぐらいまでだった。例えばモン・ヴァントゥ(ツール)やフレッシュ・ワロンヌ(ユイの壁)でさえ「39✕26~27」を使っていたんだ。まぁ「39✕28」が当時のプロ選手の限界だったろう。
だが、今回のクリス・フルームが付けていたギヤはなんと「34✕32」だ。
ランス:「34」が前ギヤの小さい方で「32」が後ろギヤの最大。こんなのはまるで…マウンテンバイクだ。
ーーそんなのはまるで……
ランス:一口サイズのピザだ。
ついでに言うと、サイモン・イェーツとトム・デュムランは「34✕30」だった。
Summery! Yates and Dumoulin 34×30. Pinot 34×32. Froome 38?(Osymetric)x32. Hansen 39×32. Many others 36×32. Shimano neutral 36×30. pic.twitter.com/axsAuqhlCV
— Kei Tsuji / 辻啓 (@keitsuji) 2018年5月19日
ランス:クリス・フルームの「34✕32」をつける為には、通常のものとも違う、異なったディレーラー(ケージが長いリアディレイラー)を付けなければならないんだ。だがそれは100g重くなることを意味する。それは勇気のいる決断だったと思う。たった100gと思うかもしれないがな。
ーー100gの差を気にするなんて職業は自転車選手とドラッグディーラーぐらいだろうね。
ランス:たまにその二つの職業は交わり合うけどな。
ーーディレーラーが変わって100g重くなると感覚も違ってくるの?
ランス:一般のライダーでは気づけないぐらいの差かもしれないが…とにかくクリス・フルームのクレイジーなのは「34✕32」を使おうとしたそのアイディアだな。
一時代前はスティグマ(差別的レッテル)があった。自転車ロードレースは元々マッチョイズムと距離の近いスポーツだったからな。昔に「34✕32」を使おうものなら、周りから軽蔑されただろう。
ーー当時のプロトンだったら罵られていただろうね。
ランス:たぶんな。だが1997年に空力性能に優れたエアロスーツを(TTではない)ノーマルステージで着ても笑われただろう。そんな例はたくさんある。
ーーいわゆる”フルーム(スカイ)時代”で多くの変化があったんだろうね。他のチームにも「あのギアを試してみよう」と思った選手がいたはずだ。
ランス:いまは少しでもレースに有利なるなら、機材やトレーニング方法、食事を周りの目なんて気にせずに試す時代だ。
とにかくこのフルームの選択は信じられない。俺も「34✕32」に乗ってみたいよ。
また、これのメリットとしては「シッティングで登れる」ことがある。俺が使っていた「39✕28」だったら22%の勾配なんてダンシングしないと登れない。だが、フルームのマウンテンバイク・ギヤだったらシッティングが可能になるんだ。ダンシングが得意な選手もいればシッティングを望む選手もいる。そういうことだ。それもフルームがゾンコランを勝てた要因の一つだろう。
リーダージャージの魔法
ーーフルームはまるでプロ初勝利かのように喜んでいたね。
ランス:ああ。フルームはレース後のインタビューであのステージ勝利の価値について語っていたが…全部嘘っぱちだろうな。フルームが総合優勝以外であんなに喜ぶわけがない。まぁ本当のところは本人しかわからないけどな。
ーー僕は今回のジロであまり注目されていないけど、すごい活躍をしているジャック・ヘイグ(ミッチェルトン・スコットの山岳アシスト)について話したい。
ランス:全く知らなかった選手だ。
ーー背が高くて長い時間先頭を引いてる選手だ。イェーツの為にね。
ランス:デッカくて痩せっぽちな選手だ。
ランス:リーダージャージはチームの能力を高めるんだ。
リーダージャージのおかげで持っている能力が5〜20%ほど引き上がる。プロトンが自分たちをリスペクトし、前を引かなければならない状況がそうさせる。それにレース中ずっとテレビに映るんだ。自分の両親、近所の人、彼女、肉屋が自分の姿を観ることになる。そりゃ能力以上のものが出るさ。珍しい現象ではない。チームのリーダーがジャージを獲得して「集団のコントロールしなきゃならなない」状況が選手の士気が下げるなんてことはあり得ない。
ーージャック・ヘイグという選手は190cmで…
ランス:ジョージ・ヒンカピーと同じだな。
ーーたったの70kgだ。
ランス:ジョージ・ヒンカピーではないな。
中継を観た限りではとても細い選手だが、積んでるエンジンは大したものだ。でも、ジャック・ヘイグだろうが、ダリル・インピーだろうが、リーダージャージの恩恵を受けているんだろうな。*ダリル・インピーはジロに出場していません。
ーーヘイグはチームカーからの無線でどんな指示を受けていたのかな?
ランス:うーん。少なくともマット・ホワイト(スポーツディレクター)は、選手一人一人が、何ができて何ができないのか、身体の動きでいまどういう体調なのか把握しているだろう。
ーー心拍数などのデータはチームカーで把握できるのかな?
ランス:わからないな。少なくとも俺たちの時代はなかった。
ーーワット数が落ちて心拍数が上がったら「この選手はもう終わり」って判断するとか…あるのかな?
ランス:そこまで進歩していない気がする。そもそもチームカーに乗っているスポーツディレクターはみな世界のトップ・オブ・トップだ。そんな数字がなくてもペダルの踏み方で見抜けるから、必要ないのかもしれない。
ーーなるほど。そろそろまとめてくれ。
サイモン・イェーツの未来
ランス:グランツールの第3週目は、第1〜2週とは異なる。特にジロは、第3週目に総合順位をめちゃくちゃにするコースレイアウトを用意するんだ。例えば休息日の直後に個人TTを持ってきて、その後、難易度の高い山岳コースを、しかも第17ステージは山頂スタートだ。連続して山頂フィニッシュが続く。
ーー展開の予測ができないよね。
ランス:第17ステージの最初の上りで何かが起こるぞ。とにかく第3週目は何が起こってもおかしくない。北イタリアの天候が安定しないのはみんな知ってるだろ?
ーーもしイェーツがこのまま総合優勝したら、そのままツール出場なんてことはあるのかな?
ランス:うーん。若い選手がそんな見切り発車でダブルツールに挑戦するのは、ツラいだろうな。ていうか、どうでもよくないか?これだけジロを支配して、強烈な印象を残したんだ。来年のツールに出場すればたちまち優勝候補筆頭だ。
ーーでも観たいよ。サイモン・イェーツが今年のツール走るところ。
ランス:そんなのは3週間走ったことない人間だから言えるんだ。やってみろよ。辛いんだよ。グランツール走った後は。数週間は疲れが抜けないほどダメージを受けるんだ。
ーーうーん、残念だな。
だが、たしかにこのスポーツの未来を考えれば、その考えにも一理あるのかもしれない。だったらグランツールをすべて二週間にすればいい。もちろんツール・ド・フランスもだ。ASO(ツール主催者)は1週間分の儲けがなくなるが、そうすれば全てのグランツールに総合順位を争うスター選手たちが揃う。
そして三連覇を”グランドスラム”と呼べばいい。スカイとクリス・フルームだったら可能だろう。個人的には賛成だ。ゴルフもテニスもクリケットもグランドスラムはある。いいかもな。
ーーファンベースのスポーツにするならそういう思いきったアイディアもいいかもね。
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こちらの回の伏線となっている箇所もあるので、合わせてどーぞ↓