CPA(プロサイクリスト協会)の会長選挙に立候補したデヴィット・ミラーの落選は確実であったが、おかげで組織の問題が浮き彫りとなった。
CPAとは1999年に発足したスイスに拠点を置く自転車のプロ選手をまとめる組織で、現会長は元ジロと世界戦王者のイタリア人ジャンニ・ブーニョ(Gianni Bugno)が務めている。
この聴き馴染みのない団体の会長選挙に注目が集まったのは、クリス・フルームやゲラント・トーマスらが抗議の声を上げたこともあるが、最初はデヴィッド・ミラー(41歳/スコットランド)というウィギンスのツール総合優勝(2012年)までイギリスで最も成功した自転車選手といわれていた元選手が、4年任期の3期目を狙うジャンニ・ブーニョの対抗馬として名乗りを上げたからだろう。
だが、投票をしなくてもデヴィッド・ミラーが負けることは明白であり、ミラー本人もそれを理解していた。
なぜか?
その理由はCPAの投票方式にある。
会長選挙にはプロ選手の資格を有していれば誰であっても参加(投票)することができるのだが、CPA加盟国であるフランス、イタリア、スペインなどは、代表者が所属選手分を代表して投票する。つまり、フランスは150人を、イタリアは124人、スペインは86人分を組織票として投票されるのだ。
また、その各国選手の意向を調べる予備投票は行われない。*北アメリカ選手連盟は今回行った
つまりその三国の代表者の支持を得られれば当選できるのだ。
それ以外(選手協会がCPAに加盟していない)の国の選手も、投票することができるのだが、その為には今回投票が行われるオーストリア・インスブルックまで赴かなくてはならない。
アイルランド人のダン・マーティンもその不公平性をツイッターでつぶやいている。
Interesting date chosen by @cpacycling for the election. The day after the Elite men’s TT meaning any riders not doing the RR will be heading home, and being the Thursday the majority of the RR peloton will be travelling incl myself meaning I will not make the vote.
— Dan Martin (@DanMartin86) 2018年9月17日
「CPAが決めた投票日が興味深い。エリート男子個人TTの翌日(26日)に行われる。(TTに出場するが、30日に行われる)ロードレースには出場しない選手は即帰宅するし、ロードレースに出場する選手たちの多くは木曜日(27日)に現地インスブルックに入る。つまり僕も(を含めた多くの選手は)投票ができない」*カッコ内引用者
この公正を欠く投票に対し、9月21日にクリス・フルームやゲラント・トーマス、フィリピン・ジルベールなどの選手は、連名で投票の公平性と2019年へ延期を求める抗議文書を、CPAと現会長ジャンニ・ブーニョに対して送った。
抗議文に署名した27選手一覧
ゲラント・トーマス(ウェールズ)
クリス・フルーム(イギリス)
ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)
フィリップ・ジルベール(ベルギー)
マシュー・ヘイマン(オーストラリア)
ヤコブ・フグルサング(デンマーク)
トニー・マルティン(ドイツ)
マルセル・キッテル(ドイツ)
ロマン・クロイツィゲル(チェコ)
ダリル・インピー(南アフリカ)
ミカエル・ヴァルグレン(デンマーク)
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
ワウト・プールス(オランダ)
バウケ・モレマ(オランダ)
グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア)
ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)
マイケル・マシューズ(オーストラリア)
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)
シュテファン・キュング(スイス)
リッチー・ポート(オーストラリア)
ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)
ローリー・スザーランド(オーストラリア)
トム・デュムラン(オランダ)
ミケル・ランダ(スペイン)
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)
ここで注目すべきは、CPA加盟国(組織票を有している)フランス人のアラフィリップや、スペイン人のランダやバルベルデの名前があることだろう。
また、ダン・マーティンは投票方法に対してもツイッターで抗議している。
Please @cpacycling Show us that you listen to the people you represent by letting every rider vote. This is the 21st century and an electronic vote is less open to corruption than gathering a few people in a room and raising hands.
— Dan Martin (@DanMartin86) 2018年9月17日
「CPAには、全ての選手に投票できるようにして欲しい。代表している選手の意見を聞いてほしい。21世紀のいま、少数を集め行われる投票より、電子投票の方が腐敗する可能性は低いだろう」
だが、この抗議に対して現会長ブーニョは以下のように突っぱねた。
「電子投票?それを突然要求するなんてことはできない。(前回の会長選挙から)四年もあったのに」
「(投票方法に)変更はない。投票は何も変わらずに実行される」
「会合を開くのにはお金がかかるんだ。(選挙の)2日前にそれら全てを無駄にすることはできない」
また、CPA役員の一人は米VeloNewsの取材に対してこう答えた。
「CPAは電子(ネット)選挙に反対はしていない」
「しかし、数週間前にその方法に適応のは不可能だ。(中略)それには時間と費用、テクノロジーがかかる。それを数週間前に用意することはできない」
27日に投票結果が公表され、379 対 96 の大差でジャンニ・ブーニョのCPA会長の続投(3期目)が決定した。
だがツール・ド・フランスで4回の総合優勝をしているクリス・フルーム(33歳/イギリス)は、米VeloNewsのインタビューに対して「新しい選手団体を組織するか、CPAとの交渉する考えがある」とコメントした。
【追記】
本件に関するランス・アームストロングのコメントも紹介しておこう。
デヴィット・ミラーのCPA会長選立候補に際し、ランス・アームストロングは「彼は最も会長にふさわしくない」と英ガーディアンに答えた。
「(会長がミラーに代わったところで)何も変わらない。なぜなら(CPAという組織時代が自転車界に)変化を生み出すようなものではないのだから」
「CPAのような見せかけの団体ではなく、本物の選手組織を作るべきだ」
これはデヴィッド・ミラー個人への批判というよりも、選手が団結し、CPAとは別にUCIや主催者などに意見ができる団体を組織するべきだ、と主張だ。
ランス・アームストロングは今年のツールをレビューするポッドキャスト番組でも、選手連盟を組織するべきであるという主張と、同時にその困難さについてコメントしていた。それについては別途エントリで紹介したい。