イネオスがツールで総合優勝しないと自転車ロードレースは終わるよね

この記事を要約すると…

・イネオスみたいな金持ちチームがツール総合優勝した方がいい
・安いチームが勝つとスポンサーが資金を出し渋るようになる
・発展途上な現在の自転車ロードレースはまだまだお金が必要
・下剋上を楽しむのにこのスポーツは10年早い

最強チームに陰りあり

フルーム、Gトーマス、ベルナルと最強の三人が揃うチームイネオスに、未曾有の危機が訪れている。

一つ目は、今季ジロ開幕直前のトレーニング中にエガン・ベルナルが落車。鎖骨を骨折し、エースとして出場予定だったジロを回避した。しかし回復が順調に進んだこともあり、本来の予定になかったツールへの二度目の出場が決まった。二つ目はフルームの落車、骨折だ。ドーフィネ第4ステージの個人TTの試走中に落車し、命にこそ別状はなかったものの右大腿骨や肘などを骨折、今季中の復帰が絶望となった。

そして三つ目は、ツールの前哨戦であるツール・ド・スイス第4ステージでゲラント・トーマスの落車だ。骨に異常はなくチームの公式発表では予定通りツールに出場できると発表されたものの、大事な直前レースを未完走のままツールに挑むこととなってしまった。

そう。ここ7年で6回のツール総合優勝という圧倒的な成績を残すイネオスに、いま黄色信号が灯っているのだ。

そしてこの千載一遇のチャンスを狙うのが、昨年同様キンタナ、ランダ、バルベルデのトリプルエースで挑むモビスターと、課題だったTTの成長が著しいアダム・イェーツのミッチェルトン・スコット、そしてドーフィネ総合優勝のフルサンとイネオスにも引けを取らない優秀なアシスト陣の揃うアスタナだ。

この3チームが、長く続く最強軍団の牙城を崩すべく襲いかかる。

だが、自転車ロードレースというプロスポーツの未来を考えた場合、これらチームはツールで総合優勝するべきではない。

むしろツールはイネオスこそが総合優勝にふさわしいのである。

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ツール総合優勝はお金で買えるべき

あらかじめ断わっておくと、別にイネオスが好きだからイネオスが優勝するべきだと主張したいワケではない。ここで言いたいのは、イネオスのように多額の資金で運営されるチームが総合優勝するべきということだ。

なぜなら、仮に大型スポンサーが多額のお金を注ぎ込むイネオスやバーレーン・メリダのようなチームを抑え、もしEFエデュケーション・ファーストやロット・スーダルのような資金に乏しいチームがツールで総合優勝をしてしまえば、「お金をかけなくても工夫次第ではツールで総合優勝は可能」だと証明されてしまい、スポンサーが資金投入を躊躇う理由になってしまうからだ。

もちろん、弱き者たちが知恵を出し合い死力を尽くし絶対王者をやっつける姿はスポーツの魅力の一つだ。

しかしそれを心から楽しめるのは資金が飽和状態になったプレミアリーグ(イングランドサッカー)などであって、「国際化を目指してオイルマネーもガンガン入れて盛り上げて行こうぜ!」という発展途上にある今の自転車ロードレースの下剋上にはメリットよりもネガティブな影響の方が大きい。

先月、2018年度のイネオス(当時スカイ)運営資金が報告され、前年比10.2%増額の約53億円だということが明らかになった。チームが創設された2010年と比べると2.6倍もの資金であり、今後も総資産3兆円とも言われるラットクリフ会長のもと、徐々に増加していくだろうと言われている。

だが、このスポーツの金満チームも他スポーツと比較してみれば、極東日本のサッカーチームである浦和レッズと同程度だ。世界的な競技の最強軍団の予算規模としては物足りない。

つまりイネオスのようにスポンサーがより多く資金を注ぎ込めばツール総合優勝という結果を得られると、外の世界にアピールすることが、EPO時代後の崩壊から再建途上にあるこのスポーツには重要なのである。

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キャノンデールが犯した罪

イネオスのツール総合優勝が今後の競技に好影響を与えるのと真逆な出来事だったのがキャノンデールのクラウドファンディングだろう。

2017年のブエルタ・ア・エスパーニャ開催中にキャノンデール・ドラパックは、新スポンサーを見つけられず不足する約7億円の為にクラウドファンディングで資金を募った。

チームにとしてはEFエデュケーション・ファーストというスポンサーに出会えたキッカケになったかもしれないが、自転車ロードレース界全体を考えると好ましい方法ではなかった。なぜなら公に「ワールドツアーで戦うチームですら7億円集めるのに苦労している」と声高にアピールしているようなものだからだ。

仮にも直近のツール・ド・フランスで総合2位に入った選手(リゴベルト・ウラン)のチームが、直後に7億円を集められずに困窮の末に、ファンから直接運営資金を募うことは、スポーツ界のトップカテゴリ(ワールドツアー)を戦うチームがやっていいことでは断じてない。

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イネオスの危機は、スポーツ全体の危機

昨年、シーズン73勝という圧倒的な成績を残したクイックステップ・フロアーズがスポンサー探しに難航し、ガビリアやテルプストラといった主力選手を手放した。つまりツール総合優勝以外の主要クラシックなどの勝利に市場価値がないことが証明されてしまったのだ。

そのことからも、自転車ロードレースで唯一スポンサーによって宣伝価値のあるツール・ド・フランスは「お金で買える」と声高にアピールする必要がある。そこから他レースのブランディング(価値化)に波及するべきなのだ。

ここ2年でイネオスはベルナル、ソーサ、シヴァコフというステージレーサー候補の選手たちを総取りした。このように、このスポーツは金銭的な規模だけではなく、有力な若手選手の独占を防ぐレギュレーションすら整備されていないほど発展途上なのだ。

つまりはまずスポーツ全体の規模を拡大し、そこからレースがより盛り上がるようUCIや各レース主催者がデザインする、その現在の良い流れを崩してはいけない。

ゲラント・トーマスにはイネオスだけではなく自転車ロードレース全体の未来もかかっているだ。

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Source: InnerRing