超級山岳グラン・コロンビエール(距離17.4km/平均7.1%)の頂上フィニッシュで締めくくられた第2週目最終日。
その第15ステージを制したのはまたしても若手のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ/21歳)。そして2位にはマイヨジョーヌを着用するのはプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ/30歳)が入った。
今ツールで抜群の強さを見せるスロベニア人2名による独走に何も驚きはないが、それ以上に衝撃をもたらしたのは2人から7分以上も遅れたエガン・ベルナル(イネオス/23歳)だ。
ベルナルはその後背中と膝の痛みを訴えレースを棄権。
これによりイネオスのスカイ時代から続いた5連覇が途絶えたわけだが、その黄金時代を切り開いた第一人者であるサー・ブラッドリー・ウィギンスが「トーマスを外したことからイネオスの失敗は始まっていた」と噛み付いた。
“I think that you take your big players to races like that.”@SirWiggo thinks @INEOSGrenadiers are missing @GeraintThomas86 at #TdF2020 👀
📽 Watch #TheBreakaway on Stage 15 here: https://t.co/mBfigi85NE pic.twitter.com/WsRsrITPuI
— Eurosport UK (@Eurosport_UK) September 13, 2020
↑ウィギンスの変貌ぶりには毎年驚かされる。
「ゲラント・トーマスは出場中のティレーノ〜アドリアティコで総合3位につけている。一方、カラパスは今日27分遅れでフィニッシュした。ツールに急遽出場することになったとはいえ、昨年のジロ王者が影に隠れてしまっている」
「いまのゲラント・トーマスならツールの総合10位以内には入っていただろう。もしゲラントが出場していたらトム・デュムランと同じ順位にいたはずだ。ベルナルが落ちたいま、彼のスタイルならばトップコンディションじゃなくてもリッチー・ポートと同じような位置にいたはずだ。もし調子がよければ総合優勝争いをしていたはずだ」
「つまりツール・ド・フランスにゲラント・トーマスを選ばなかったことは、明らかな間違いだったということだ。イネオスは選択を完全に誤ったな」
英断と言われた決断
ツールを選出外になりジロ・デ・イタリア(10月3~25日)の総合エースとして出場するゲラント・トーマス(33歳)は、イタリアで開催されている8日間のティレーノ〜アドリアティコに出場し、総合優勝したサイモン・イェーツに17秒差の総合2位と好調ぶりを見せた。ちなみにブエルタでエースを務めるクリス・フルームは1時間2分遅れの91位と心配…
一方、ジロで2連覇を狙う予定が一転しツールを走るリチャル・カラパス(エクアドル/27歳)は、第15ステージ終了時で32分遅れ。休息日明けの第16ステージで2位に入るも、昨年ジロで見せた軽快なペダリングは鳴りを潜めている。
つまりカラパスは期待されていたダブルエースはもちろん、山岳アシストとしての役割も全く果たせていないのだ。
ポルタル監督不在が全ての原因?
ウィギンスいわく、イネオスの今大会における原因にはベルナルの不調以外にもあるのだという。
「イネオスには(ツールで失敗した)理由が他にもある。例えば初めてニコ(ポルタル監督)がいなかったり、ゲラント・トーマスやクリス・フルームの不在もそうだ。過去にイネオス(スカイ)がやってきたことを完璧に実行しているのがユンボ・ヴィズマということだ」
チーム全員に脚がなかった
確かに今大会のイネオスはすべてが例年と異なっていた。
山岳アシストとしてベルナルをサポートするはずのクライマーたちが山岳ステージでは早々と脱落。ユンボ・ヴィズマが複数人を残す集団で、単独で走るベルナルの姿が何度も見られた。
また第15ステージはそれが顕著に現れたステージだった。
最終山岳グラン・コロンビエールの麓に辿り着いた時点でユンボ・ヴィズマがログリッチ含め6人を揃え、一方でベルナルのアシストはクフィアトコフスキとカストロビエホの2人だけ。そのカストロビエホも、ベルナルをフィニッシュラインまで送り届ける前に脱落した。
イネオスには先述したカラパスの他に、初日に落車した若手のシヴァコフや移籍直後にメンバーに抜擢されたアマドールといったクライマーを連れてきたのだが、全員が本来仕事をしなければならない登りまですら辿り着けていない。
それはいかにチーム全体としてコンディションが整っていないかを物語っている。
つまり仮にベルナルがログリッチやポガチャルと同じコンディションだったとしても、最終山岳までにクフィアトコフスキしか残せないイネオスに勝ち目はなかったのだ。
補強すべきは首脳陣
今大会は、今年3月に亡くなったニコラ・ポルタル監督がどれほどイネオス(スカイ)に欠かせない存在であるかを浮き彫りにした。
デイブ・ブライルスフォードGMは「今後1人の中心となる監督に頼らない新しい指揮系統の構築」を語っていたものの、その再構成が間に合わなかったことが今回の結果を引き起こしたと言ってもいいだろう。
そして、ここで一気に注目を集めそうなのが今季限りでトレック・セガフレードを退団し、6年ぶりに古巣イネオス(スカイ)への復帰(の噂)が報道されたリッチー・ポート(オーストラリア/35歳)の存在だ。
ポートはレース再開直後のインタビューで「今季で総合エースの役割からアシストに徹する」と語っている。つまり引退後は首脳陣入りし、そしてポルタル氏に代わる中心人物として、イネオスの立て直しが期待される。