ヴィヴィアーニの犠牲心。ランスの2019年ツール第12stレビュー

ピレネー山脈に突入した第12ステージは、激しい逃げ形成の結果40名という大きさの逃げ集団ができた。その中の二人と共に最終の1級山岳ウルケット=ダンシザンで飛び出したミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツ(イギリス/26歳)が、トラック経験活かしフィニッシュ直前の2つのコーナーを上手く使い加速。スプリントでツール初勝利を上げた。

デニスの不可解な棄権

先頭とは対照的に穏やかな展開となったメイン集団ではある事件が起こっていた。レース序盤で果敢にアタックを繰り返し、翌日の個人タイムトライアルの優勝候補にも上がっていたバーレーン・メリダ所属ローハン・デニス(オーストラリア/29歳)がレース途中でリタイアしたのだ。

レース後は記者会見もなく、デニス本人もチームも棄権した具体的な理由を一切明かさないまま、個人TT世界選手権王者がツールを去った。

ランス・アームストロング:インターネットではたくさんの憶測が飛び交っているが、ジョージ。ローハン・デニスが棄権したな。

ジョージ・ヒンカピー:すごく奇妙だよね。明日のステージ(27km個人TT)の優勝候補の一人だし、今日は逃げを作ろうと積極的だった。

(中略)

ーーローハン・デニスに何が起こったと思う?

ヒンカピー:わからないし、誰にもわからないんじゃないかな。ランスは何か情報を掴んでると思っていたけど…(僕は)さっぱりだね。体調も良さそうだったし。

ーー(レース中に)突然止まって、チームの人間を含め彼がどこにいるかすら分からなかったらしい。

ランス:それホントか?

ーーそう僕は聞いたよ。

ランス:レース止めてパブにでも行ってたのか?マジかよ。

ーーインターネットでは着替えた彼がフィニッシュ地点まで歩いてた動画が公開されていたね。

デニスのリタイアに関しては三日経った現在でもその理由は明らかになっていない。しかし一部ジャーナリストなどによるとTTバイクに関してチームと意見の食い違いがあったのではないかと伝えられている。

Source: CyclingNews

業界屈指の戦術家ホワイト監督

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アダム・イェーツの総合優勝を狙うと宣言しながらも、アシストのピュアクライマーを二人(サイモンとヘイグ)しか選出しないなど不可解な点の多かったミッチェルトン・スコット。しかし開幕してみると第9ステージをダリル・インピー、この第12ステージをサイモン・イェーツで勝利し、現実的な判断で結果を重ねている。

そしてその指揮を取っているのが、今季ジロで悔しい思いをした監督のマット・ホワイトだ。

ヒンカピー:今日のミッチェルトン・スコットには計画があって、クライマー(サイモン・イェーツ)と大きい選手(スプリンター:マッティオ・トレンティン)を逃げに送り込み、(ステージ勝利の為に)万全の準備を期していた。

そして最終山岳でサイモンがアタック、トレンティンもその近く(の第二集団)で脚を貯めていた。つまり(サイモンが)第二集団に捕まったとしてもトレンティンで勝負するつもりだったんだ。手持ちのカードをフルに使った完璧な勝利だった。

ランス:俺は監督のマット・ホワイトはものすごい戦術家だと思っている。君もそう思うか?

ヒンカピー:ああ。

ランス:(自転車ロードレース界の中でも)屈指だよな。

ヒンカピー:僕は彼と同じチームで走っていて、監督が作戦を説明した後にマットがそれを正したり、彼独自の意見を語ったりしていた。同じチームで助かっていたよ。戦術家と同時に面白いヤツだったしね。プロトンの中でも人柄の良い選手だった。

ランス:それにヤツは常に限界まで力を出していた。常に自分を追い込んでいた。そういう選手は良い戦術家になる方法を見つけるのが早いんだろうな。(自転車ロードレース界で)上手く渡り歩いていくために。

MVPはヴィヴィアーニ

激しい動きを見せた逃げ集団とは対照的に、メイン集団ではマイヨ・ジョーヌを着用するドゥクーニンク・クイックステップが牽引した。

ヒンカピー:残り100km地点からヴィヴィアーニは集団先頭で引っ張っていた。ツールを勝ちに来たスプリンターが前を引いて仕事をするんだ。僕が思うに、ドゥクーニンクはアラフィリップが長期間マイヨ・ジョーヌを着ることに対し自信があるのだろうね。ヴィヴィアーニに加えモルコフも残り40km地点で牽引していた。チームはアラフィリップの為に全てを注いでいる。これは面白いね。

ランス:今日のMVPは?

ヒンカピー:ヴィヴィアーニかな。さっき説明した理由でね。(スプリンターには厳しい丘陵ステージで)フィニッシュまでたどり着かなければいけないのに、レースの序盤から先頭を引いていた。感心したよ。

ランス:それと忘れちゃいけないのが、こいつは来年チームを離れるんだ。「俺はスプリンターで疲れていて移籍するんだ」って、(協力しない)言い訳は揃っている。大した犠牲心だよな。

今年末でドゥクーニンク・クイックステップとの契約が満了するヴィヴィアーニには、来季ワールドツアーへの昇格が濃厚と言われるコフィディスへの移籍報道がされている。