フルーム不在の代償。ランスの2019年ツール第15stレビュー

第2週目の最終日となった第15ステージは、28名の逃げ集団に入ったミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツ(イギリス/26歳)がピレネーの3つの1級山岳を制し、今大会2勝目をあげた。

出演して大丈夫なのかTJ?!

ランス・アームストロングの快進撃が止まらない。

今年は新しいスポンサーが毎エピソードのようにつき、米国NBCのツール中継にほぼレギュラー出演、第1ステージで語った「フルサングは終わった」発言は日本の中継はもちろん多くの中継や記事で引用された。

そして今回は第7ステージで落車・骨折して棄権したEFエデュケーションのティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ/30歳)がスペシャルゲストとして出演した。

ーーTJヴァンガーデレン。ようこそ。君が…あれしたのはどのステージだったっけ?

TJヴァンガーデレン:第7ステージだよ。230kmの長いレースで、簡単な日で、スプリントの日で、第1週目の特に退屈な日だった。二人の逃げができて、寝ちゃいそうになるからそういう日が最も危険な日なんだよね。

そしてバイクから何か異音がしたから確認していたら、道路の…

ランス・アームストロング:俺もバイクから変な音がするのは大嫌いだった。気になってしまう。

ジョージ・ヒンカピー:ディスクブレーキに乗るのは好きだが、乱されるのがあの擦れる音だ。君はディスクブレーキ使っていた?

TJ:乗ってないね。ディスクブレーキのバイクはあるよ。二種類あって、一つはSYSTEMSIX(システムシックス)という空力性能に特化したモデルで、これにはディスクブレーキがついている。もう一つはより軽く山岳のバイクでこちらはリムブレーキだ。僕はほとんどをこっちに乗っていたね。

アラフィリップの終わりの始まり

山頂がフィニッシュ地点の1級山岳フォア・プラットダルビで総合6位のティボー・ピノがアタック。それにマイヨ・ジョーヌのジュリアン・アラフィリップ、エガン・ベルナル、エマヌエル・ブッフマンが反応するも、ゲラント・トーマスとステファン・クライスヴァイクが遅れてしまった。

その後、繰り返されるピノのペースアップによって、アラフィリップが千切れ、次いでベルナルとブッフマンも遅れてしまう。そしてアラフィリップはGトーマスとクライスヴァイクにも遅れを取り、総合2位のトーマスに27秒差をつけられてしまった。

ランス:今朝起きてテレビをつけたら死体がそこら中に転がっていたな。そしてアラフィリップにとっては終わりの始まりなのだろう。ゲラント・トーマスは良く見えないし、ティボー・ピノはジュリアン・アラフィリップに対し1分15秒遅れだ。第10ステージで彼は1分40秒失ってしまった。もしあの横風が吹いた時に、異なる時間に異なる位置にいたら、10秒リードでマイヨ・ジョーヌを着ていたはずだ。そうしたら全く違った動きやレースになっていただろう。

不可解なモビスター

昨年同様、悪い意味でファンの期待を裏切ってくれているもビスターがこの第15ステージでも不可解な動きを見せてくれた。

ジョージ:ナイロ・キンタナが逃げ集団に入っていた。一緒に逃げていた選手にとっては喜ばしいことじゃないよね。選手たちはきっと「なんでお前がここにいるんだ!お前のせいでメイン集団がコントロールして勝てるチャンスがなくなるじゃねーか!」って思っていただろう。今日のモビスターの作戦は(昨日よりも)大分良くなっていた。

ランス:まだチームに機能不全は見られたけどな。ランダがキンタナの横をかわしていった時、アスペンの冷気を感じられたぞ。

ジョージ:キンタナはランダの為に待たなかったし、お互いが目を合わせすらしなかった。(キンタナがランダに)ボトルも渡さなかったし、集団まで引くことも、ペースを作って上げることもしなかった。

ーーこの二人はチームメイトだけど、全く違う方角に向かっているね。

さすがにこのままにしておくのが得策ではないと気づいたモビスターは(手打つの遅ぇよ)、第16ステージの前にキンタナとランダ、バルベルデが並びファンにメッセージを送る動画を公開。動画後半にランダがキンタナの脚をマッサージしてわだかまりがないことをアピールした。

フルーム不在がもたらすイネオスの不調

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今大会がここまで予想できない展開になっている大きな原因に、イネオスによる統制が取れていないことにある。ここ10年ほどツールでお馴染みになっているイネオスの山岳トレインは鳴りを潜め、レースの最終段階にエースのゲラント・トーマスとベルナルを除くとポエルスしかいない。そのポエルスも先頭を引く時間は他のチームのアシストよりも圧倒的に少なく、つまり総合優勝を争う集団がまさにフラットな状態で戦っているのだ。そうなっている原因をTJは、フルームの不在にあると話す。

TJ:(今年の)ドーフィネ第2ステージで大きな逃げ集団ができたんだ。そこにはアラフィリップやデュムラン、ブッフマンなど15名の強い選手たちが入っていた。しかし(メイン集団では)誰も焦ることはなかった。なぜなら皆フルームのためにイネオスが捕まえることが明らかだったからだ。それはここ10年ほど慣例になっていることだ。レースで起こるあらゆるダメージをとても強い彼らは修復する。

しかしクリス・フルームがおらず、エースはゲラント・トーマスとエガン・ベルナルだ。もちろんゲラント・トーマスは昨年ツールの総合優勝者だが、クリス・フルーム(がツールで走っていたら)だったら「ものには限度があり、君はそれを越えていて、僕の為に働け」と言うだろう。*他チームをまとめてイネオスが有利になるようメイン集団をコントロールする

ランス:俺もフルームだったらそう言うと思うよ。

TJ:(もしフルームが出場していて)エガン・ベルナルとゲラント・トーマスが行って逃げとの距離を詰める仕事をしていたらと想像してみてよ。(他のチームの)動きは完全に封じられる。アシストのはずだった選手たちがエースになるということは、最終山岳の一個前の登りで前を引く選手が、最終山岳で仕事をしなければならないと言うことだ。

だからリゴ(ウラン)に伝えようとしたことは、「ドーフィネ第2ステージで起こったことを考えてみてよ。もしあの時イネオスが逃げを捕まえなかったら、ドーフィネの総合優勝者はその集団から生まれていたかもしれない。だからツールでもそういった動きを見つけよう」ということだ。そして彼らにそれが今日見つかるかもしれないと伝えたんだ。

ランスが現役だった頃と比べ、最近のプロトンには統率を取るリーダーがいないと言われて久しいが、選手の間でクリス・フルームという影響力の大きさを、TJの分析は示している。