長きに渡りトップカテゴリーで走ることのできる選手と、そうではない選手の差は何なのだろうか。
成績?実力?リーダーシップ?チームへの貢献度?
否、
スポンサーへのアピールである。
「プロ選手の仕事とは広告業である」というのは、逃げ職人であられるデヘント先生のお言葉。
選手はスポンサーの広告塔。その課せられた役割を全うする者こそが、契約という報酬にありつけるのだ。
そんな選手がトッププロの世界で生き残る術を、イギリス選手権個人TTを4度制覇した経験を持つアレックス・ドーセット(イギリス/32歳)から学んでいこう。
STEP1:アピール材料を見つける
舞台はワールドツアー開幕戦のUAEツアー。
全長21km/5.4%の山岳フィニッシュが待つ第5ステージで、ドーセットはチームメイトのオメル・ゴールドスタイン(イスラエル/24歳)と共に逃げグループに入る。
実はこのゴールドスタインという選手、昨年11月のイスラエル国内選手権で優勝したナショナルチャンピオン。
つまり、イスラエル・スタートアップネイションの中でフルームの次に活躍を期待されている選手なのだ。
そんなチームが「激推し」する選手と共に逃げ集団に乗ったドーセットだったが、TTスペシャリストにとって登り坂フィニッシュに勝機はない。ましてや集団の中にはアレクセイ・ルツェンコや、前述したデヘントなど有力選手たちが含まれているのだ。
勝利が薄いこの逃げで、ドーセットが果たせるミッションとはなんだろうか?
頭をフル回転させたドーセットは、そのスイッチをスポンサーへの「アピール」に切り替えた。かどうかは知らんけどな。
STEP2:アピールする相手を見つける
ここでドーセットが置かれた状況を確認しておこう。
この日の逃げ集団に入ったのは、登りフィニッシュに適正のある選手を含めた9名。イスラエル・スタートアップネイションは2名入っている有利な展開だ。
それに加え、逃げグループに帯同するチームカーを運転していたのは監督であるドロール・ペカッチ氏。
実はこの監督、現役時代こそ無名の選手だったが、今シーズンから加入したチーム唯一のイスラエル人監督なのだ。ちなみにトップチームでイスラエル人監督は史上初。
つまり、完璧なアピール相手なのである。
なぜならこの人の間近で活躍すれば、即座にチームオーナーであるユダヤ系カナダ人シルヴァン・アダムス氏(61歳)に伝わるからだ!
STEP3:褒める!とにかく褒める!
順調に距離を消化していく逃げグループの中で、ゴールドスタインも積極的に集団牽引に加わっていた。
そして、ここでチームカーにボトルを受け取りに戻ったドーセットは、ここでアピールムーブに突入する。
「オメルに伝えてくれ、オメルは働きすぎだと。せっかくのチャンスなんだ。無線で彼に”よくやっている”と伝えてくれ」via Youtube:Dream Team in the UAE. Part Two.
そして、去り際にもう一言。
「ここからは俺が前を引く。俺が働くからと伝えてくれ!」
STEP4:アフターケアも忘れずに
はい、完璧でございました。
最終的に登りはじめでゴールドスタインはメイン集団に吸収されてしまったのだが、ワールドツアーで十分に戦えることを証明したレースとなった。
それを見越して…か、どうかはわからないが、ドーセットのフォローも抜かりがなかった。
逃げが吸収され、仕事を終えたドーセットの元に再びペカッチ監督が近づくと…
ドーセット:「彼(ゴールドスタイン)は強かった。でも先頭を引きすぎた。力も使い過ぎだ。でも彼は本当に強い選手だね」
ペカッチ監督:「今日の彼の走りには満足しているよ。君の走りにもだ。とても責任感のある走りだった。よくやった!」
↑再生すればそのシーンから始まるように設定したので、是非とも観ていただきたい。
ちなみに、UAEツアーで撮影したドーセットのYoutubeにはやたらゴールドスタインが登場する。抜かりなし。