プロとして最後に走ったのは2014年10月14日に行われたツール・ド・北京。グランツールに限って言えば2013年のブエルタ・ア・エスパーニャ以来、実に7年振りの復帰戦となった。
2020年1月31日、チームイネオスが36歳のオーストラリア人との契約を発表。2日後に迫ったカデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースの出場に先立ち、チームへの加入が明らかとなった。
「チームへの加入を聞かされたのは、G(ゲラント・トーマス)とのLA合宿からオーストラリアに戻る飛行機の中だった。そしてそのままカデル・エヴァンスのスタートラインに立つことになったんだ。僕が現役の頃には存在すらしていなかったレースにね!」
そしてレース中断明けの8月に37歳を迎えたキャメロン・ウルフは、ブエルタ・ア・エスパーニャの出場メンバーに選出。総合2位に入ったリチャル・カラパスとともにグランツール完走を果たす。
ビジネスマンを目指した第2の人生
「別にトライアスロンなんてやるつもりなかった。僕はウォールストリートのビジネスマンになりたかったんだ」
ウルフは2009年にフジ・セルヴェットでプロデビューを果たすと、2011年にリクイガス・キャノンデール(現EFプロサイクリング)に移籍。ペテル・サガンやエリア・ヴィヴィアーニ、イヴァン・バッソらとともにレースをこなすが、31歳で現役引退を選ぶ。
「ウォールストリートで働くためにアメリカに引っ越したのだが、もちろん職歴はゼロ。そんな僕にキャノンデールがブランド・アドバイザーという肩書を与えてくれたんだ。そこで働きながらアメリカで職探し。そして2016年に念願の仕事が見つかり、ようやくウォール街で働けるはすだった」
現役を引退してからもトライアスロンをやっていたウルフ。しかしあくまでも趣味程度で、健康のためだったと話す。
そして、ある選手との出会いがウルフのやる気に火を付ける。
「TVでアイアンマンの世界記録保持者で世界王者のヤン・フロデノを見たんだ。一瞬で彼に魅了されてしまい、2016年末にレースに出場した。自転車はもちろん泳ぎにも自信があったからね。問題は苦手なランだけだった」
ノリでプロのトライアスリートに
そしてウルフは、そのレースのスイムとバイクでその憧れの選手以上のタイムを叩き出す。
「もちろんランは1時間ほど遅かったけど『これは本気でやれば結構なところまで行けるんじゃないか?』って思うきっかけになった」
しかしアメリカでの就職が決まっていたウルフは、一時母国オーストラリアへ帰国。タスマニアの実家でのんびり過ごしていると、見知らぬ番号から電話がかかってくる。
出ると相手はチーム・スカイでコーチを務めるティム・ケリソン。用件はヘラルドサンツアーに出場するため渡豪したクリス・フルームのトレーニング・パートナーの誘いだった。
「クリスと一緒にトレーニングできる機会なんて滅多にないぞと思い、二つ返事で了承したよ。僕のスポーツ人生の終わり方としては最高の機会だと思ってね」
しかしそのトレーニングで力強い走りを見せたウルフに、ティム・ケリソンはプロのトライアスリートになる道を勧める。
そしてチームスカイは2017年よりウルフのサポートを開始。ウルフはプロのアスリートとして現役復帰を果たすことになった。
イネオス入団の舞台裏
「それ以来クリス・フルームと一緒に練習していた。2018年のほとんどはG(ゲラント・トーマス)とトレーニングを積んでいた。同じアンドラに住むシヴァコフとゲイゲンハートとも走ったよ」
ウォール街で第2の人生をスタートさせるはずが、奇妙な繋がりからスペインでトライアスリートになったウルフ。スカイからのサポートもあり、ウルフはアイアンマンレースの世界選手権で2年連続でトップ10に入る活躍を見せる。
そして去年、イネオスのGMであるデイブ・ブライルスフォードから自転車選手としてのオファーを受けた。
「去年マヨルカ島の合宿で、隣に座ったデイブ(ブライルスフォード)から『チームに空きができたらその一員として走らないか?』という提案を受けたんだ。そんな事考えたことなかったし、最後にレースを走ってから6年も経っている。でも確かにチームの選手やスタッフのみんなとは仲良しだし、一緒に練習してそのままレースを走れたらどんなに楽しいかって思ったんだ」
そして2020年1月、ヴァシル・キリエンカが心臓の疾患を理由に突然の引退を発表する。
「デイブから電話があり『断る理由なんてない』と答えた。その時はG(トーマス)とのLA合宿からオーストラリアに戻る飛行機の中だった。そのままカデル・エヴァンスのスタートラインに立っていたんだ。僕が現役の頃は存在すらしていなかったレースにね!」
ブエルタの次に待っているもの
新型コロナウイルス感染拡大により主戦場であるアイアンマンレースが軒並み中止になり、ロードレースに本格参戦することになったウルフ。その結果、前年のジロ覇者であるリチャル・カラパスのアシストとしてブエルタ・ア・エスパーニャに選出され、一時はマイヨロホを着用するカラパスを牽引。見事完走を果たした。
あくまでもメインの活動はアイアンマンレースだが、コロナ禍のため来年以降についてもまだ未定だと話す。
「コロナが収まらない限りはアイアンマンは開催されないからね。ダウンアンダーもどうなるか分からないし。でも来年の前半はロードレースに出場し、それ以降は未定だよ」